歯科医院を法人化すると何が変わる?開業医が知っておくべき知識を解説

目次
この記事の監修

株式会社HG&カンパニー / はぎぐち公認会計士・税理士事務所代表取締役
公認会計士・税理士

萩口 義治(はぎぐち よしはる)

金融機関の格付け評価10段階中「最高評価獲得」
「経営革新等支援機関推進評議会」によって、表彰される全国TOP100会計事務所に選出

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株式会社HG&カンパニー / はぎぐち公認会計士・税理士事務所代表取締役
公認会計士・税理士

萩口 義治
(はぎぐち よしはる)

金融機関の格付け評価10段階中「最高評価獲得」
「経営革新等支援機関推進評議会」によって、表彰される全国TOP100会計事務所に選出

個人事業で歯科医院をはじめられた方は、いつ法人化すべきか、法人化にはどのようなメリットがあるのか、手続きが大変そうだといった、疑問や不安をお持ちではないでしょうか。

そこで本記事では、歯科医院を法人化することで何が変わるのか、法人化による社会保険制度の違いや、節税面のメリット、注意すべきデメリットを解説します。読み進めれば、法人化すべきかどうかの判断材料を手に入れることができ、開業医が知っておくべき知識が得られるでしょう。これから歯科医院の医療法人化を検討している方は必見です。

歯科医院の法人化で何が変わる?

個人事業として開業した歯科医院を法人化させるといくつかの点で変化があります。そこで本章では、医療法人化でどのような点が変化するか、開業医が知っておくべき知識をまとめます。

目的の変化

医療法人になると、営利目的ではなく、安定して医療を提供することが大きな目的になります。医療法人化すると、契約や資産の管理主体が法人となり、経営の透明性や信用力の向上が期待できる利点があります。一方で、個人と事業の財産は明確に分けられるため、個人資産との混同が厳格に分けられるようになります。また、平成19年4月1日からの法改正で、現在新たに設立できる医療法人は「持ち分なし医療法人」に限られました。持ち分なしとは、出資者が法人の財産に対して権利を持たない形式です。これは、医療機関の公益性を確保し、永続的な運営を支える仕組みです。そのため、法人で利益が出ても、その利益は法人に還元され個人へ引き継ぐことはできません。また、出資額も返還されることはないため、引退時には退職金などで精算する必要があります。法人化にあたっては、この制度の理解が不可欠です。

保険の変化

法人化により、社会保険の加入が必須になります。本章では、院長本人とスタッフの「労働保険」「年金保険」「健康保険」の変化を解説します。

院長本人の社会保険の扱い

開業医自身が対象となる社会保険には、年金保険と健康保険があります。勤務医の頃には労働保険も適用されていましたが、独立して事業主となると労働保険の対象外となります。なお、医院が個人経営か医療法人かによって、適用される保険の種類が異なります。

年金保険健康保険
個人経営国民年金歯科医師国保または自治体の国民健康保険
医療法人厚生年金協会けんぽ、または(法人化以前からの加入に限り)歯科医師国保を継続可

スタッフの社会保険

スタッフの社会保険は、以下の3種類を考慮する必要があります。

保険種類内容備考
労災保険業務中のケガなどを補償・事業主が全額負担、保険料は給与の0.3%程度
雇用保険退職時などに備える保険・事業主負担0.6%、スタッフ負担0.3%
・スタッフ負担分は給与から差引き、年1回(7月)にまとめて納付
年金厚生年金・スタッフ・事業主が保険料を半分ずつ負担
健康保険協会けんぽ
または歯科医師国保
・法人化前加入者限定で継続可能
・協会けんぽの場合も、保険料はスタッフと事業主で折半

厚生年金と協会けんぽに加入しているスタッフの保険料は、給与から天引きされた分と事業主負担分を合わせて、毎月支払う必要があります。また、昇給のタイミングによって保険料が変動するため、昇給時期は計画的に設定するのが望ましくなります。

歯科医院法人化のメリット

個人事業として歯科医院を開業される方が多いですが、その後法人化を検討される場合があるでしょう。歯科医院の法人化にはどのようなメリットが期待できるでしょうか。

節税を見据えた税制の優遇

法人化すると、個人事業で課せられる累進課税ではなく、法人税の定率課税が適用になります。たとえば、年収が高くなるほど所得税率が最大45%まで上がる個人事業と比べ、法人税率は約23%程度に抑えられるため、利益が大きい歯科医院では節税効果が高まります。また、配偶者や家族を役員として登用し、役員報酬を分散させると課税所得の最適化に。歯科技工士や衛生士の雇用が多く、設備投資も大きい医院では、法人化することで経費計上の柔軟性がより高まります。

承継がスムーズに進む

歯科医院を次世代に引き継ぐ際、個人事業だと医院の資産や契約をすべて個人単位で整理し直す必要があり、手続きが煩雑です。しかし、法人化していれば、法人そのものを存続させたまま代表を変更するだけで事業承継が完了します。たとえば、子どもが歯科医師として後継に入る場合、株式の譲渡や役員変更を行えばスムーズに経営権を移譲できます。また、法人名義のままリース契約や従業員雇用も維持できるため、継承時の混乱が最小限に抑まります。

従業員の待遇改善と社会保険の充実

法人化により、社会保険(健康保険・厚生年金)への加入が義務づけられるため、従業員の福利厚生が充実します。特に若い歯科衛生士や助手などを採用・定着させるうえで「社保完備」は大きなアピールポイントです。さらに、雇用保険や労災保険の適用範囲も明確になり、人材の安心感とモチベーション向上が期待でき、優秀な人材の確保にもつながります。安定したチーム運営を重視する医院には法人化が有効です。

融資獲得や資金繰りの柔軟性が向上する

法人化すると、金融機関からの信用度が高まり、融資審査が通りやすくなる傾向があります。特に歯科医院は高額な医療機器や内装への設備投資が必要になるため、安定した資金調達が事業拡大のカギです。法人では決算書に基づいた財務評価が可能で、計画的な融資申請や資金管理が行いやすくなります。また、複数店舗の展開や新規分院の開業を視野に入れる場合でも、法人の信用を活用して資金繰りの選択肢が広がります。

歯科医院法人化のデメリット

歯科医院の法人化には多くのメリットがありますが、一方で注意すべきデメリットも存在します。特に経営規模が小さい医院や、安定収益がまだ見込めない開業初期の段階では、法人化によって逆に負担が増すケースもあるため、法人化に伴うリスクやコストを理解しておくことは重要です。

赤字でも発生する法人住民税などの固定費

法人は利益の有無に関係なく、毎年法人住民税の「均等割」など一定額の税金が発生します。たとえば、利益が出なかった年でも最低7万円程度の法人住民税が課税されます。個人事業の場合は赤字であれば基本的に税負担はありませんが、法人では事業が不調でも維持コストが継続的にかかる点がデメリットです。

社会保険加入義務による人件費の増加

法人化すると、従業員だけでなく院長自身も社会保険(健康保険・厚生年金)への加入が義務化されます。たとえば、歯科衛生士を3名雇用している医院では、年間で数十万円単位の支出増となることも珍しくありません。個人事業では加入が任意なので、経費を抑える目的で未加入にしているケースもありますが、法人化するとこの選択肢はなくなります。社員の安心感は担保されますが、その分かかる費用は増えてしまいます。

事務手続き・税務処理の煩雑化

法人化すると、法人税の申告書類や決算書の作成、役員報酬の取り扱いなど、個人事業よりも事務作業が格段に複雑になります。特に開業医である院長が日々の診療に忙殺されている場合、これらの処理を税理士や事務スタッフに依頼する必要が出てきます。たとえば、医療法人ではなく株式会社として法人化した場合、医療法に基づいた届け出とは異なる形での行政対応が求められ、実務負担や専門家への報酬が増える可能性もあります。

自由な利益配分ができない

法人では、医院の利益を「役員報酬」や「配当」としてしか個人に還元できません。個人事業のように、利益を自由に事業主の収入として取り出すことはできなくなります。たとえば、急な設備購入や家族の生活費に充てるために柔軟に資金を動かしたい場合でも、法人ではそれが難しくなります。また、役員報酬を事前に決定しなければならず、途中での変更が原則できません。そのため、一時的に売上が上がったから、期の途中で役員にボーナスを支給する、などの変更も不可です。そのため、売上が不安定な歯科医院では、柔軟な資金繰りができなくなる点がリスクになるかもしれません。

歯科医院法人化のタイミング

歯科医院を個人事業として始めた場合でも、経営が成長していくと法人化を検討すべきタイミングが訪れます。法人化は、タイミングを誤ると経費倒れになる可能性もありますが、うまく活用すれば税制面や資金調達、人材確保において大きな恩恵が得られます。本章では、歯科医院が法人化を検討するべき代表的なタイミングを解説します。

高所得時の節税戦略が必要なとき

年間の所得が800万円を超え始めたあたりから、個人事業では所得税・住民税の負担が急増します。例えば、自費診療が増加して月商が大幅に上がった場合、利益の大部分を税金で持っていかれるかもしれません。法人化すると、所得を分散させたり、家族への役員報酬の活用、退職金の積立などで節税ができます。特に、矯正やインプラントなど高単価の診療が軌道に乗ってきたタイミングは、法人化による節税効果が高まります。

医療設備の更新を検討しているとき

CTやマイクロスコープなど高額な医療機器の導入は、歯科医院にとって大きな投資です。個人事業主としては一括での資金負担や融資の審査が厳しくなる場合もありますが、法人化すると金融機関からの信頼が高まり、融資条件が有利になります。また、減価償却による節税効果も法人の方が計画的に行いやすくなります。最新機器を導入して診療の幅を広げたい場合に、法人化は設備投資の強い味方になります。

スタッフの増員や人材確保が課題のとき

歯科衛生士や受付スタッフの確保は、医院経営の根幹を支える重要課題です。法人化すると社会保険への加入が義務となりますが、逆に言えば「社保完備」は求職者にとって大きな魅力です。特に経験豊富な歯科衛生士は勤務条件を重視する傾向があるため、法人化によって優秀な人材を安定的に確保できるかもしれません。また、福利厚生制度を整備しやすくなるため、スタッフ定着率の向上が期待できるでしょう。

分院開設や事業拡大を視野に入れたとき

本院が安定運営できるようになり、地域内での分院開設や新しい診療メニューの導入を考えるようになったら、法人化は必須とも言えます。法人であれば事業所単位での管理がしやすく、分院ごとの収支や人事管理も明確になります。例えば、近隣に小児歯科専門の分院を設けてターゲットを分ける場合、法人化によりブランド統一や資金調整がスムーズになります。中長期的な事業展開を考えるなら、早めの法人化が効果的です。

歯科医院を法人化するまでの一連の流れ

歯科医院の法人化は、通常の事業と異なり「医療法人」という特殊な法人格を取得する必要があります。そのため、一般的な株式会社の設立よりもステップが多く、厚生局や都道府県知事への申請など、医療特有の手続きが求められます。本章では、歯科医院が医療法人を設立するまでの流れを解説していきます。

医療法人化の要件

医療法人を設立する要件は以下です。

歯科医院医療法人化の要件
人員・最低3名以上の社員
・理事が3名(理事長を含む)、監事が1名
施設・設備・1か所の医療施設を保有(病院、診療所、介護老人施設など)
・診療を行うための機器や設備が備わっている
資金・年間の支出予算の2か月分に相当する運転資金を確保している
・個人時代の資産を法人が取得する際には、そのための資金も別途用意しておくこと
・医院の土地や建物が、法人所有か、または長期的な賃貸契約が確保されている
その他・法人名は既存の他法人と同一でないこと
・誤解を招くような表現を含まない名称である
・複数施設を運営する場合、それぞれの施設管理者が法人と雇用関係を持っていないこと

これらすべての基準を満たすと、医療法人の設立が認められます。

説明会への参加と概要把握

歯科医院が医療法人化を目指す場合、まずは各都道府県で実施される「医療法人設立説明会」への参加が必要です。これは年に数回しか開催されないこともあり、参加しないと申請自体が受け付けられないケースもあります。説明会では設立条件、必要書類、スケジュールなどが詳細に説明されるため、院長が理解を深めるだけでなく、行政書士や税理士などの専門家と同行して確認することも多いです。矯正専門の歯科医院などでは事業の独自性が問われるため、この段階で認可の可能性を見極めておきましょう。

定款作成から公証までの準備

医療法人の定款は、一般の法人に比べて記載項目が細かく、公益性を前提とした内容が求められます。たとえば「診療所の目的」「役員の構成」「剰余金の扱い」などを、法的要件に沿って明確に規定する必要があります。歯科医院の場合、院長一人で診療している個人医院でも、理事会の体制を整えたり、監事を外部に依頼するなどの準備が必要になります。作成した定款は公証人役場での認証を受けなければならず、事前に顧問の士業と綿密な打ち合わせを行い、ミスのないように進める必要があります。

設立許可申請の実務と提出書類

定款の認証後は、都道府県知事への医療法人設立許可申請を行います。この手続きでは、診療所の運営状況、財務内容、定款、設立趣意書、役員名簿など多岐にわたる書類の提出が求められます。特に歯科医院では、保険診療と自由診療の収入割合や、スタッフの雇用状況が審査のポイントになることがあります。また、医療法人化後も医療提供の安定性が保たれるかどうか、地域医療への貢献があるかなども評価対象となります。申請書類はミスがあると受理されないため、専門家のサポートが不可欠です。

認可取得後の登記と法人設立完了

設立許可が下りると、次に行うのは法務局での登記手続きです。この登記をもって、晴れて医療法人として正式にスタートできます。登記後は、税務署や社会保険事務所などへの法人設立届出も必要で、従業員の社会保険加入義務も発生します。例えば、歯科衛生士や受付スタッフが複数名いる医院では、給与計算や保険手続きの体制整備が必要になります。また、法人名義での口座開設やリース契約の名義変更など、細かな事務処理も多いため、設立直後は事務的な負担が一時的に増加しますが、これを越えれば法人運営が本格化します。

まとめ

歯科医院の法人化は、経営の安定や節税、スタッフの待遇改善など多くの利点がある一方で、手続きの煩雑さや固定費の増加といった課題も伴います。

しかし、正しい知識を持ち、タイミングを見極めて準備すれば、経営効率を大きく高める事が可能です。

本記事では、法人化により何が変わるのか、メリットとデメリット、そして手続きの流れまで、開業医が知っておくべき知識を解説しました。

ぜひ最適な法人化にお役立てください。

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