起業時や事業拡大期に直面するのが、「個人事業主のままいくか、法人化(法人成り)するか」という究極の選択です。
特に売上規模が2,000万円を超えてくると、単なる税負担の差だけでは測れない課題が浮き彫りになります。
安易に法人化すれば、事務負担の増加が足かせになって、経営のスピードを削ぐ要因になるかもしれません。
その一方で、個人事業の継続が機会損失につながり、本来得られたはずのビジネスチャンスを逃すリスクも孕んでいます。
2026年現在、税制や法規制の変化する中で、何を基準に判断を下すべきなのか、迷っていらっしゃる方も多いでしょう。
そこで本記事では、法人化のメリット・デメリットを、コスト、税務、信頼性の面から徹底解説します。
そして売上2,000万円の税金を個人事業主と法人で比較してみます。
シミュレーションを参考に、あなたの事業にとって真に有利な選択を明らかにしていきましょう。
税務・コスト面でのメリット・デメリット
以下は、個人事業主と法人の税務・コスト面を比較した表です。
ここでは、概観をつかんでいただくのを一番の趣旨とし、個々の詳細は、述べないことにします。
なお、○の数が個人事業5個、法人3個となりましたが、○の数では有利不利は決まりませんので、ご了承ください。
| 個人事業主 | 法人 | |||
| ①設立費用 | ○ | 0円 | × | 株式会社:約25~30万円 合同会社:約10~15万円 |
| ②経理・税理コスト | ○ | より簡単 税理士費用はゼロか安い | × | より複雑 高い税理士費用がよりかかる |
| ③経営者の給与 | × | 経費にならない | ○ | 経費になる |
| ④生命保険の経費化 | × | 個人控除の範囲内で節税余地は小さい | ○ | 戦略的な節税ができる |
| ⑤赤字の繰越 | × | 青色申告を条件として3年 | ○ | 青色申告を条件として10年 |
| ⑥赤字の場合の課税 | ○ | 0円 | × | 最低7万円 (法人住民税の均等割) |
| ⑦社会保険料のコスト | ○ | 強制適用ではない範囲が広い | × | 社会保険が強制適用 |
| ⑧交際費 | ○ | 制限なし | × | 一部制限あり |
| ⑨インボイス対応 | △ | 免税事業者の選択肢あり | △ | 取引先との関係で登録はほぼ必須 |
法人のメリット・デメリットをまとめると
「(1) 運用にコストがかかる一方で、(2) 経費が計上しやすい」となります。
ですから、一定規模以上の課税所得(≒利益)が出ている場合には、
(1)のコストよりも(2)の経費による節税効果が高くなって、有利です。
個人事業主と法人の所得税比較シミュレーション
以下の条件で、個人事業主と法人の所得税を比較してみます。
売上:2,000万円
経費:800万円
課税所得は、売上ー各種控除で求められます。
個人事業主の控除は、
・青色申告特別控除65万円・基礎控除48万円
利益:2,000万円-800万円=1,200万円
課税所得:1,200万円ー65万円ー48万円=1,087万円
所得税:1,087万円*33%-153万6,000円=205万1,100円
(※計算上の細かい論点は省きます。)
前述の個人事業主が、法人を設立し社長になった場合の計算を行います。
・会社の売上:2,000万円
・経費:800万円
・社長自身の役員報酬:月100万円
法人の課税所得:
1,200万円-100万円*12か月=0万円 ⇒均等割7万円だけはかかる…A
社長の所得税:
社長の給与所得:1,200万円-195万円(給与所得控除額)=1,005万円
課税所得:1,005万円-基礎控除48万円=957万円
所得税は、957万円*33%-153万6,000円=162万2,100円…B
AとBの合計は、169万2,100円です。
つまり、個人事業の場合の所得税205万1,100円と、
法人化した場合の納税額の合計169万2,100円を比較すると
法人化によって35万9,000円の節税効果が出たことがわかります。
個人事業主と法人の所得税の差
| 個人事業主 | 法人 | 社長の報酬 | |
| 売上 | 2,000万円 | 2,000万円 | 1,200万円 |
| 経費 | 800万円 | 800万円 | ー |
| 役員報酬 | 0万円 | 1,200万円 | - |
| 控除額 | 113万円 | 0万円 | 243万円 |
| 所得金額 | 1,087万円 | 0万円 | 957万円 |
| 納税額 | 205万1,100円 | 均等割7万円+162万2,100円169万2,100円 | |
| 差 | 個人事業主 > 法人 35万9,000円 | ||
所得税の税率
| 課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
| 1,000円 から 1,949,000円まで | 5% | 0円 |
| 1,950,000円 から 3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
| 3,300,000円 から 6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
| 6,950,000円 から 8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
| 9,000,000円 から 17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
| 18,000,000円 から 39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
| 40,000,000円 以上 | 45% | 4,796,000円 |
引用元: No.2260 所得税の税率|国税庁
給与所得控除
| 給与等の収入金額(給与所得の源泉徴収票の支払金額) | 給与所得控除額 |
| 1,625,000円まで | 550,000円 |
| 1,625,001円から 1,800,000円まで | 収入金額×40%-100,000円 |
| 1,800,001円から 3,600,000円まで | 収入金額×30%+80,000円 |
| 3,600,001円から 6,600,000円まで | 収入金額×20%+440,000円 |
| 6,600,001円から 8,500,000円まで | 収入金額×10%+1,100,000円 |
| 8,500,001円以上 | 1,950,000円(上限) |
引用元: No.1410 給与所得控除|国税庁
これは、「比較表の③:経営者の給与が経費になる」という要素を使っただけで、
社長の取分は、個人事業主になっても法人化しても、年間1,200万円のままです。
それでも、これだけの節税があります。
35万円強の節税ができるなら、一度きりの設立費用や、税理士費用の増額が多少
あっても十分メリットとなるでしょう。
法人の場合は、この他にも、法人と個人での所得分散や
生命保険など他の節税効果を使えば、より大きな節税ができる余地があります。
税務メリットの最適化は、消費税のこと、個々人の所得控除のこと、
来期の見通しなど様々な要素に応じて変動してきます。
そのため一概に「いくら以上の所得が出たら法人化が有利」とは言い切れません。
しかし、事業から多くの所得が出るにつれて、法人化の優位性が増してくる点については、ぜひ念頭に置いていただければ幸いです。
資金調達上のメリット・デメリット
銀行から融資を受ける際、会社の方が個人事業よりも有利なのかというご質問をよくいただきます。
結論から言うと、融資の判断は自己資金の厚みが重視されるため、会社形態だけで有利になることはありません。
ただし、外部から出資を募る場合は、株式を発行できる法人格であることが絶対条件です。
とはいえ、会社の方が、経営者の公私財産の区別が明確であり、
より厳密な経理処理が求められる点で信用度が高いと言える要素もあります。
しかし、最近では「会社」=「信用が高い」という図式は成り立たなくなっています。
以前は、株式会社であれば最低資本金1,000万円というハードルがあったため、
その金額は工面した経営者という信用性になりました。
ですが今は、株式会社も資本金1円から作れるのですから、会社形態では差がつかなくなってきています。
そのため、箱(形態)よりも中身(透明性と自己資金)がより重視されるようになっています。
創業融資の合否を分ける最大の鍵は、今も昔も自己資金の厚みです。
極端な話、資本金1円で手持ちが少ない法人より、1,000万円蓄えた個人事業主の方が高く評価されます。
金融機関は箱の種類ではなく、経営者の準備のプロセスや本気度を重視するからです。
これは直感的にも理解しやすいと思います。
ですから、融資を受けるために会社化しようと決定するよりは、むしろ、節税効果や事務負担の増大といった他の要素を優先して判断すべきです。
一方で出資を受ける場合は、会社が前提となり、会社化は必須となります。
自身の事業計画には、「融資」か「出資」のどちらが合うかを見極め、最適な形態を選択しましょう。
税務以外でのメリット・デメリット
続いて、税務・資金調達以外の観点から個人事業主と法人の比較をします。
社会的信用の差
ビジネスの世界では、法人格の有無は依然として大きな信頼の指標となります。
法務局に登記され、決算公告の義務(株式会社の場合)などを負う法人は、個人に比べて情報の透明性が高いと判断されます。
大手企業や公的機関の中には、コンプライアンスやリスク管理の観点から、個人事業主との直接契約を制限している場合もあります。
法人化すれば、このような門前払いを受けず、販路を大きく広げられる可能性が増します。
人材採用における優位性
優秀な人材を確保し、定着させるためには法人化が後押しになる場合があります。
法人では、社員が社長一人でも、社会保険(健康保険・厚生年金)への加入が義務付けられています。
働く側からすれば個人の手伝いではなく組織の一員として雇用される方が、将来的な安心感や家族への説明がしやすいため、離職率の低下にもつながります。
社保完備が福利厚生の最低ラインと考える求職者なら、個人事業主よりも採用活動を有利に進められるでしょう。
事業開始手続きでの違い
事業開始手続きが簡単なのは、断然「個人事業主」です。
開業届を税務署に提出するのみで完了するため、煩雑な手続きもなく、すぐに事業を始められます。
一方の法人設立では、さまざまなステップを踏んで手続きを進めなければなりません。
現在は、マイナポータルを活用したオンライン一括申請ができるため、以前より手続きはスムーズになりました。
ですが、依然として決定すべき項目は、個人事業を開始するのに比べて多いです。
【法人設立のためのステップ】
- 法人の種類を選ぶ
- 会社名や屋号を決める
- 定款や概要を定める
- 資本金を払い込む
- 役員の報酬額を決める
- 登記の手続きをする
- 法人設立届を提出する
- 青色申告の承認申請書を提出する
- 給与支払い事務所等の開設届出書を提出する
- 「納期の特例の承認」(源泉所得税)に関する申請を出す
- 健康保険・厚生年金保険の新規適用届を出す
参照:https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/touki2.html
ざっと見ただけでも、法人設立には手間と時間がかかることが分かりますね。
ただし、法人ならば株式会社だけでなく、合同会社という選択しもあります。
個人事業主と法人のメリット・デメリットまとめ
これまでご紹介してきた内容を、メリット・デメリットとして表にまとめます。
| 個人事業主 | 法人 | |
| メリット | ・手続が簡単で費用がかからない ・即日でも開業できる ・経理や税務処理がそこまで難しくない | ・社会的信用度が高い ・経費として計上できるものが多い ・融資を受ける際に有利になる場合がある |
| デメリット | ・経営者の給与が経費にならない ・青色申告でも赤字の繰越が3年しかできない | ・法人設立の手続きに手間と費用がかかる ・設立までに数週間以上の時間がかかる ・経理や税務処理に手間がかかる |
個人事業主から法人成りのタイミングは年間所得900万円
税金の面で見ると、一定所得までは個人事業主のほうがお得なケースが多いです。
そこで、一定所得を超えるまでは個人事業主として事業を展開し、所得額が多くなってきたら法人として設立するのも良いでしょう。
ただし、個人事業主が良いのか法人が良いのかは、前述したように様々な要素によって決まります。
そのため、一概に収入が増えたら法人化するのが効果的とは言えません。
一般的には、法人のほうが税率が低くなる年間所得900万円ほどが、法人化を検討するタイミングとされています。
そのほか、金融機関からの融資が必要になったタイミングで法人化を検討しても良いでしょう。
まとめ:適した事業形態を選ぼう
税務面だけを考慮すれば、「利益がいくら以上になったら法人化した方が得」というような正解のようなものがあるとも言えます。
しかし、個人事業主か法人化するかについては、社会的信用など 税務以外の要素も考慮したうえで、適切な判断をする必要があります。
はぎぐち公認会計士・税理士事務所では、法人化を含めた無料相談も承っております。
個人事業主のままでいるか法人化すべきか悩まれている方は、まずはお気軽にお問い合わせいただき、弊社の設立サービスをご体験ください。

