■テーマ 事業のボトルネック、経営者としての付き合い方
今回は、創業当初のボトルネックの変遷と、経営者はボトルネックとどうつきあうべきかについてお話したいと思います。
■「ボトルネック」とは?
創業ベンチャーの事業は、常にアンバランスです。
最初は売上が不足しているため、営業に時間を割き売上を上げようとしますが、
売上が上がってくると段々忙しくなってきて、今度は受注した業務をこなす時間が足りなくなってきます。
このように事業は、販売・業務リソース・生産力などいずれかの要素が「いっぱいいっぱい」になると、それ以上に大きくなることができなくなります。
その「いっぱいいっぱい」になっている要素のことを「ボトルネック」といい、
その時点その時点でのボトルネックを適切に解消していくことで、事業の成長を早め、成長を継続することができるようになります。
■ボトルネックは変遷する
創業ベンチャーの最初のボトルネックは、「売上」が不足している場合がほとんどです。
起業するとまずは、給料の代わりに自分の生活資金を稼がなくてはならず、そのためには売上を上げることが事業の最初の課題となります。
最初の課題なのですが、実は、多くの起業家が、この段階でストップしてしまうことが多いというのも事実です。
まずは、この「売上」のボトルネックを突破して、自分一人もしくは創業メンバーでは回らないという所まで売上を計上できるかどうかが、創業ベンチャーの最初の試練です。
世の中の7割が赤字企業であると言われていたり、世の中に個人事業主が多いということも、ボトルネックが「売上」という段階から脱し切れていない会社が非常に多いということを物語っています。
そしてこれをクリアすると、今度は業務面でのリソースがボトルネックとなったり、規模の大きな受注に対応するための資金がボトルネックとなったりします。
私は「起業」と「経営」を明確に区別しています。
事業のボトルネックが「売上」から「業務リソース」へと移り、人材を(ちゃんとした給料を払って)雇用しはじめたときが、起業家から経営者になる時だと考えています。
ボトルネックは事業モデルによって、様々な順番で発生します。
例えば、初期費用が多額にかかる場合や、ITベンチャーのようにローンチまでの開発費用がかさむ場合には、「資金」が最初のボトルネックになる場合もよくあります。
製造業では、商品がヒットすると、生産能力がボトルネックとなることもあります。
売れない製品は、ずっと営業面がボトルネックなのに、ヒットすると急に生産能力がボトルネックとなります。
しかし、製造業の場合には、一時的なブームのために工場を増設したところで、工場が出来あがるころにはそのブームが去っているということも重々あり得ます。
このボトルネックについては、生産能力の増設によって解消するというよりも、外注によって対応する方がよいのかもしれません。
ボトルネックをどのような方法でクリアするのか、またはクリアしなくても待っていれば解消する問題なのか、ここは経営者の見極めだと思います。
■創業経営者がハマるボトルネックの罠
創業経営者がボトルネックにハマる場合、以下の2つのケースがあります。
①気付いているのに、解消できないケース
②気付いていないケース
それぞれ、どのように解消すべきか、以下に記載します。
①気付いているのに、解消できないケース
私も多くの創業経営者を拝見しておりますが、特に、創業経営者があるボトルネックを解消できない状況が長く続く場合というのは、一つの傾向があるように感じます。
それは、思ってはいるけど、そのボトルネックの解消のために、「時間」と「お金」を使うことができないということです。
忙しい忙しいといいながら、それが解消できないでいる経営者は、人を採用するために時間やお金を使っていないことが多いです。
でもこの経営者が怠慢なのではありません。売上がそこそこ上がってきている段階では、一人経営者はとっても忙しいのです。
日々、忙しく営業と業務をこなしていくだけで精いっぱいで、「人材の採用」という新しいことのために使える時間がほとんどないのです。サボっている覚えなど、全くないのです。
そこで必要なことは、売上が下がってもいいから、人材採用に「時間」と「お金」を使うということです。
一人で売上の限界に挑戦する「起業家」から、従業員の力を借りて売上を増額していく「経営者」になるためには、自分の時間の使い方を変えなくてはなりません。
自分が業務をして売上を上げるということに使う時間を減らして、人材の採用に時間を使うのです。
「起業家」⇒「経営者」になるということは、「生まれ変わる」とか、「進化する」とか、意外と大きな発想の転換が必要になります。
一人の経営者が「人を雇う」ということは、目先、コストが増え、業務効率が落ち、売上が落ちるということなのです。
ただし、これに時間が使えなければ、あなたは、ずっと一人経営者のままです。
変わろうとするよりも、これまでやってきた方法で自分の目の前にある売上を上げるために、
(忙しい忙しいと言いながら)業務に時間を使うことの方がよっぽど簡単で、易しい道であるということを自覚してください。
②気付いていないケース
売上が上がってきて、業務もそれなりバランスよく回りだすと、「うちにボトルネックはない」と思ってしまうケースがあります。
確かに、今の売上があって、今の従業員がいてうまくいっていれば、不満はないかもしれません。
そんな時は、自分にこう問いかけてみてください。「俺は、ここで満足していていいのか。」と。
例えば、「今より売上を10倍にするにはどうしたらよいのか?」とか、「シェアNo.1の●●社を超えるにはどうしたらよいのか?」などと考えてみてください。
まだまだすべきことが見つかりませんか?
私は、経営者がどこを目指しているのかによって、自覚できるボトルネックは変わってくると思っております。
より高みを目指すとき、ボトルネックは必ずまた出てきます。ご安心ください(笑)
■事業の一般的なボトルネック解消法
ボトルネックの解消法は、TOC理論(制約理論)を活用した方法が一般的です。
TOC理論はイスラエルの物理学者エリヤフ・ゴールドラット氏による理論で、「Theory of Constraints」の頭文字を取ったものです。
TOC理論では、事業を進める上で、制約条件となるボトルネックを解消していくことが重要であると提唱しています。
この理論を活用したボトルネックの解消は、下記5つのステップで進めます。
- ボトルネックを特定する
- ボトルネックの活用を検討する
- ボトルネックに合わせる
- ボトルネックを改善する
- ボトルネックの発見と改善を繰り返す
STEP1:ボトルネックを特定する
ボトルネックを特定することが、最初の重要なステップです。
具体的に、どこがボトルネックなのかを見つけましょう。
重要なのは、ボトルネックを見誤らないことです。
「作業が思うように進んでいない」現状の裏には、人材が足りていない場合のほか、作業の効率が悪い場合も考えられます。
間違ったボトルネックだと思い込んでしまうと、いくら時間やお金をかけても上手くいかないため注意が必要です。
ボトルネックを特定するために、現場の声を聞いて仮説を立て、検証してみましょう。
STEP2:ボトルネックの活用を検討する
次に、ボトルネックが具体的にどれくらいの影響をもたらしているのかを見積もります。
この見積もりをベースに、改善するための具体的な計画を立てていきます。
STEP3:ボトルネックに合わせる
改善のための計画を立てたら、一度計画を脇へ置き、ほかの方法でボトルネックをカバーできないかを考えます。
ボトルネックそのものを改善するのではなく、ほかの部分を改善して補う方法を模索するのです。
これにより、根本的にボトルネックが改善できない場合でも、ほかの方法を用いてボトルネック解消を目指すことができます。
STEP4:ボトルネックを改善する
ボトルネックの改善方法には、さまざまな方法がある場合もあります。
最適な方法を選ぶ際は、ボトルネックへの影響や改善にかかるコストや手間を考慮してみると効果的です。
また、ボトルネックそのものではなく、ほかの方法でカバーできる手段があるのなら、大幅なコストや手間をかけるよりも、まずはその手段を試してみると良いでしょう。
その上で、まだ改善すべき部分が残っているのなら、大々的な方法に出てみると効率的です。
STEP5:ボトルネックの発見と改善を繰り返す
ボトルネックを改善しても、その後また新たにボトルネックが出てくることは良くあります。
また、一旦改善したとしても、さらに改善の余地が出てくることもあるでしょう。
そのため、ボトルネックは発見と改善を繰り返していく必要があります。
発見と改善を繰り返す際には、ボトルネック発見から改善までのサイクルを見直して検証し、ブラッシュアップしていくことも大切です。
■まとめ
一つ解決しても、状況が変わるごとに違う原因で発生する、ボトルネック。
経営者には、ボトルネックが都度変わることを理解し、常に向き合う姿勢が大切です。
TOC理論を活用してボトルネックの発見・改善を繰り返し、より高みを目指していきましょう。