スタートアップで会社設立を考えている方のなかには、資金調達・法人設立の流れを効率的に知りたいと考える方もいらっしゃるでしょう。本記事では、スタートアップ起業の全体像を整理し、ビジネスモデルの構築、事業計画の作成、資金調達の方法、スタートアップ起業のステップなどをわかりやすく解説します。本記事を読めば、初めての起業でも安心して全体像を把握でき、設立後の成長戦略を描くヒントも得られるはずです。
スタートアップ起業の全体像と準備ステップ
スタートアップの立ち上げには、アイデアだけでなく、実現に向けた具体的な準備と戦略が不可欠です。市場で成功を収めるためには、ビジネスモデルの設計から資金調達、法人設立まで、段階的に進める必要があります。
本章では、スタートアップ起業を目指す方に向けて、準備から設立までの全体像と重要な5つのステップをわかりやすく解説します。
ステップ1:ビジネスモデルを考える
起業の第一歩は、「どんな価値を誰に届け、どう収益化するか」を明確にすることです。ビジネスモデルとは、事業の仕組みを図式化したもので、商品・サービス、顧客ターゲット、収益の流れ、競合との違いなどを整理します。リーンキャンバスやビジネスモデルキャンバスといったフレームワークを活用すれば、短時間でアイデアを視覚化しやすいでしょう。まずは明確なビジネスモデルを構築することが、その後の資金調達や事業計画作成にも直結します。
ステップ2:事業計画を作成する
ビジネスモデルが固まったら、次は具体的な「事業計画書」の作成に進みます。事業計画は、自社の強みや市場分析、販売戦略、収支予測、スケジュールなどを盛り込んだ「事業の設計図」です。特に資金調達や銀行融資を受ける際に欠かせません。投資家や金融機関への説得材料にもなります。明確かつ現実的な事業計画は、自分たちの方向性を確認する羅針盤の役割も果たします。事業を始める前に立ち止まり、数値と戦略のバランスを見直しましょう。
ステップ3:壁打ち・フィードバックを得る
事業アイデアや計画が固まったら、第三者の意見を取り入れることが重要です。これを「壁打ち」と呼びます。信頼できる仲間や起業経験者、メンターにアイデアや計画を話し、率直なフィードバックをもらいましょう。自分では気づけなかった課題や盲点が浮き彫りになり、改善点を明確にすることができます。起業は孤独な作業になりがちですが、外部の視点を得ることで客観性が生まれ、成功確率を高める大きな助けとなります。
ステップ4:資金調達方法を検討する
スタートアップの多くは自己資金だけでは十分な運転資金を確保できないため、資金調達の方法を早い段階で検討する必要があります。選択肢には、銀行融資、ベンチャーキャピタル(VC)、エンジェル投資家、クラウドファンディング、補助金・助成金など、事業フェーズや目的に合った手段を検討しましょう。また、調達だけでなく、資金を「どのように使うか」の計画も同時に立てておくと、無駄のない運営が可能です。
ステップ5:法人設立と登記を行う
事業を本格的にスタートさせるには、法人の設立と登記が必要です。株式会社や合同会社など、形態によって設立手続きや初期コストが異なるため、自社に最適な形を選びましょう。法人化により、信用力が向上し、資金調達や取引の幅が広がるメリットがあります。設立には、定款の作成・認証、登記申請書の提出、資本金の払込など複数のステップがあり、法的な手続きも多いため、必要に応じて専門家に依頼しましょう。

スタートアップにおける資金調達の方法
スタートアップを立ち上げるうえで最も重要な課題のひとつが「資金調達」です。自己資金だけでは成長スピードに限界があるため、外部からの資金をどう確保するかが成功のカギとなります。本章では、出資・融資・補助金など、スタートアップに適した資金調達手段を体系的に解説します。
① 出資
出資とは、投資家が会社の株式や持分を取得する代わりに資金を提供する方法です。資金返済の必要がなく、成長段階に応じた柔軟な調達が可能ですが、出資比率によって経営権に影響が出ることもあります。特にスタートアップ期では、ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家からの出資が主な選択肢です。
ベンチャーキャピタル(VC)
VCは、将来の株式公開(IPO)やM&Aによるリターンを狙って、成長性の高い企業に出資する専門投資機関です。資金だけでなく経営支援やネットワークの提供を受けられるのが魅力ですが、事業計画や成長戦略が明確である必要があります。また、将来的に大きな成果を求められるプレッシャーも伴います。
| 主なベンチャーキャピタル会社 | 概要 | リンク |
| ジャフコ グループ株式会社 | 日本最大級の規模、民間最古のベンチャーキャピタル会社 | ジャフコ |
| 日本ベンチャーキャピタル株式会社 | スタートアップと大企業・大学をつなぎ、起業支援・投資を行う独立系ベンチャーキャピタル | 日本ベンチャーキャピタル |
| ニッセイ・キャピタル株式会社 | 日本生命系のベンチャー投資会社 | ニッセイ・キャピタル |
| 三菱UFJキャピタル株式会社 | 三菱UFJフィナンシャル・グループ傘下のベンチャーキャピタルで、スタートアップや成長企業への投資・支援を行う会社 | 三菱UFJキャピタル |
エンジェル投資家
エンジェル投資家は、個人でスタートアップに出資する富裕層や経験豊富な起業家を指します。VCよりも柔軟な投資スタイルで、創業初期のアイデア段階から支援してくれることもあります。経営アドバイスや人脈紹介など、資金以外のサポートも期待できます。信頼関係の構築が成功のカギです。
② 融資
融資は、出資と異なり返済義務がある資金調達方法ですが、会社の持分を失わずに済むというメリットがあります。スタートアップの場合、民間金融機関の審査は厳しいことが多いため、創業支援に力を入れている日本政策金融公庫などの制度融資が現実的な選択肢となるでしょう。日本政策金融公庫では、「新規開業・スタートアップ支援金」など、無担保・無保証で借りられる創業支援融資を提供しています。事業計画書や返済計画の整備が必要ですが、比較的審査が通りやすく、初めての起業家にも人気です。地方自治体や商工会議所と連携した融資制度もチェックしましょう。
③ 補助金・助成金
補助金・助成金は返済不要な資金調達手段であり、スタートアップにとって非常にありがたい存在です。ただし、申請の手続きや採択の競争率が高く、採択後の報告義務もあるため、事前の準備と計画が欠かせません。うまく活用すれば資金面の大きな後押しになります。
代表的な補助金には、「新事業進出補助金」「小規模事業者持続化補助金」「ものづくり補助金」などがあります。これらは設備投資や販路開拓、新規事業の立ち上げを支援する制度です。年度や地域ごとに制度内容が異なるため、経済産業省や自治体の公式サイトで最新情報を確認しましょう。
④ クラウドファンディング
クラウドファンディングは、インターネットを通じて不特定多数の人から小口資金を集める方法です。資金調達だけでなく、商品のテストマーケティングやPRにも効果的です。リターン型(購入型・投資型など)があり、アイデアの魅力次第で多くの支援を得られる可能性があります。
⑤ アセットファイナンスや社債
例えば、アセットファイナンスや社債が活用できるでしょう。アセットファイナンスとは、保有する資産(機器・売掛金など)を活用して資金を調達する手法です。リースバックやファクタリングが代表的です。また、信用力がある場合は社債を発行して中長期資金を確保することも可能です。スタートアップ初期ではややハードルが高いものの、成長段階で選択肢になります。
⑥ 挑戦支援資本強化特別貸付(資本性ローン)
挑戦支援資本強化特別貸付とは、日本政策金融公庫が提供する資本性ローンで、返済順位が低く、自己資本とみなされるため、財務体質の強化につながります。創業直後で赤字の期間が長くなりそうなスタートアップでも、資本性の性質を持つこの融資により、銀行や投資家からの信用力を高める効果があります。
参考:日本政策金融公庫 挑戦支援資本強化特別貸付(資本性ローン)
⑦ 新規開業支援資金
新規開業支援資金は、地方自治体や公的機関が提供する創業支援の融資制度です。低金利で無担保・無保証の場合も多く、初めての起業家にとって利用しやすい制度です。自治体によって条件や限度額が異なるため、地元の商工会議所や自治体窓口で詳細を確認しましょう。
⑧ J-Startupなどの政府支援プログラム
J-Startupは経済産業省が主導するスタートアップ支援プログラムで、有望な企業を選定し、海外展開支援、資金調達支援、大手企業との連携機会の提供などを行います。選定されることで信頼性が高まり、メディア露出やパートナー獲得にもつながります。競争は激しいですが、選ばれる価値は非常に大きいです。
参考:J-Startup

スタートアップ成功のための実践ポイント
スタートアップを成功に導くには、アイデアだけでなく実行力と柔軟な判断が求められます。特に限られたリソースの中で、どこに力を注ぎ、どのタイミングで方向転換するかが結果を大きく左右します。本記事では、スタートアップが成長・成功するために実践すべき重要な5つのポイントを具体的に解説します。
解決する課題を明確にする
スタートアップの出発点は、「誰のどんな課題を、どのように解決するか」を明確にすることです。多くの起業が失敗する理由の一つは、ニーズが曖昧なままプロダクト開発を進めてしまうことにあります。市場調査やヒアリングを通じて、リアルな課題に対する深い理解を得ることが重要です。ターゲット顧客の行動や悩みを具体的に把握し、その解決策としての自社の価値提案を言語化しましょう。明確な課題設定は、以後の開発・マーケティング・資金調達すべての軸になります。
最小限の製品で早期に検証する
スタートアップは限られたリソースの中で、早期に市場の反応を得る必要があります。そのために有効なのが「MVP(Minimum Viable Product)」、つまり最小限の機能を持った製品で仮説検証を行うアプローチです。完全な製品を作る前に、最小限の価値をユーザーに届けてリアルな反応を観察することで、開発の方向性を迅速に修正できます。検証を重ねることで無駄な投資を避け、実際に価値のあるプロダクトを作り上げることが可能になります。
ピボットや撤退判断の柔軟さ
スタートアップは、不確実性の中で事業を進めるため、常に「ピボット(方向転換)」や「撤退」の判断を柔軟に行う姿勢が求められます。ユーザーの反応や市場の変化を踏まえて、当初の仮説が間違っていれば早めに修正するのが健全な経営判断です。ピボットには、製品の機能、ターゲット顧客、収益モデルの変更などさまざまな形があります。失敗を恐れずに変化を受け入れ、次の一手に活かす柔軟性こそが、長期的な成長に不可欠です。
適切な資金調達戦略を立てる
資金はスタートアップにとって「燃料」のようなものです。事業の成長段階や目指すビジョンに応じて、適切なタイミング・手法で資金調達を行うことが重要です。初期段階では自己資金やエンジェル投資家、成長段階ではベンチャーキャピタルや銀行融資など、段階に合った選択肢を検討しましょう。また、資金を「どれだけ集めるか」だけでなく、「何にどう使うか」という配分戦略も重要です。過剰な調達や無計画な支出は、事業の失速につながりかねません。
明確なイグジット戦略を持つ
イグジットとは、スタートアップ創業者や投資家が事業から利益を得て撤退することを指します。主な手段には、IPO(株式公開)やM&A(企業売却)があります。成功するスタートアップは、事業の初期段階から「どのように出口を迎えるか」を意識して動いています。イグジット戦略が明確であれば、資金調達や経営判断に一貫性が生まれ、投資家からの信頼も得やすくなります。短期的な成長だけでなく、中長期的な視野で出口戦略を設計することが、持続可能な成功への鍵です。
まとめ
スタートアップの会社設立には、ビジネスモデルの明確化、事業計画の作成、壁打ちによる検証、資金調達、法人設立という5つの重要ステップがあります。
また、資金調達には出資・融資・補助金・クラウドファンディングなど多様な方法があり、事業段階や戦略に応じて適切に選ぶことが成功のカギとなります。
とはいえ、スタートアップの起業は複雑で専門的な要素が多いため、専門家のアドバイスを受けたいと思われる方も多いでしょう。
はぎぐち公認会計士・税理士事務所では、スタートアップの会社設立に関するご相談も承っております。
どうぞ、お気軽にお問い合わせください。

