会社設立時の費用は経費になる?かかる費用と会計処理方法も完全網羅!

目次

会社設立時の初期投資は多岐にわたり、出費が多くなることでしょう。経営者の皆様は、それらの支出が経費として認められるか、節税に活用できるかを知りたいと考えていらっしゃるのではないでしょうか。

そこで本記事では、設立前にかかる創立費や、設立後から営業開始までの開業費の具体例や金額目安、会計処理の方法を詳しく解説します。そして、会社設立を検討中の方が経費を正しく計上し、節税効果を最大化するための実践的な情報を提供します。費用を削減する方法や注意点も紹介していますので、新たに会社を設立する経営者の方は必見です。

会社設立時の費用はいつから経費になる?

会社を設立する際には、定款の作成や登記手続き、印鑑の作成、専門家への依頼など、多くの費用が発生します。設立準備段階の支出は、個人の負担とするしかないのでしょうか。実は、会社を設立する前にかかった準備段階の費用も算入できます。

会社が設立されるまでに要した設立準備のための費用は、設立後に一括で費用として処理することも、数年にわたり償却して経費化することも可能です。本章では、会社設立時に発生する具体的な創立費の内容と、その目安金額、経費に含まれない費用について詳しく解説します。 

会社設立前の費用は「創立費」

創立費とは、会社設立のために発生した支出で、会社成立前に行われた準備行為に関する費用のことです。主な費用項目と目安金額は以下の通りです。

項目内容と目安の金額
定款作成・認証費用・公証役場での定款認証にかかる費用
・電子定款の場合:約5万円(認証手数料+謄本代)
・紙定款の場合:印紙代4万円が追加で必要(電子の場合は不要)
登録免許税・法務局に支払う会社設立登記費用
・株式会社の場合15万円が目安
司法書士・行政書士報酬・登記手続き代行を依頼した場合、約10万~20万円
印鑑作成費用作成する場合会社実印・銀行印・角印の3点セットで約1万~3万円
会社設立前の打ち合わせ・交通費会場や専門家との相談にかかる費用で数千円~1万円程度
開業準備に関する消耗品費文房具や封筒、名刺などの購入費で1万~3万円程度
創立総会費用設立登記前に行う発起人会などの会場費や資料印刷代で数千円~1万円程度
登記簿謄本・印鑑証明書等の取得費1通あたり数百円~数千円
その他、発起人報酬・使用人の給与、創立事務所の賃貸料、金融機関の取扱手数料なども含まれる。

これらの費用はすべて「創立費」として会社設立後に経費計上できます。他にも、会社設立のためのミーティングでカフェを利用した際の場所代や、交通費も創立費に含めます。なお、創立費は設立完了時に一括で損金処理するか、5年以内で任意に償却することが認められています(法人税法施行令第14条)。

なお、以下は創立費に含まれない費用になります。

項目内容と目安の金額
資本金そのもの出資金は会社の元手となる資産費用ではなく「純資産」として計上
設立後の営業活動費会社設立後の広告宣伝費・営業交通費・人件費などは「開業費」に該当
役員報酬・給与設立登記後に支払う報酬や給料は、通常の人件費として処理
固定資産の購入費車両・パソコンなどは「資産」として計上され、減価償却の対象
税金・社会保険料などの公租公課設立準備段階では発生しないため、創立費ではなく設立後の通常経費になる

購入したものの履歴、領収書等は適切に保管しておきます。創立費に含められるもの、含められないものをよく把握して、正確に計上できるようにしましょう。

会社設立後から営業開始までは「開業費」

開業費とは、会社設立後から実際に営業を開始するまでに発生した準備費用を指します。営業活動に直接関係する支出が対象で、会社が事業を始めるための「初期投資」として扱われます。主な費用項目と目安金額は以下の通りです。

項目内容と目安の金額
事務所・営業所の賃貸費用契約時の敷金・礼金・仲介手数料などで30万~100万円程度
内装・設備工事費店舗やオフィスの改装、什器備品の設置費で50万~300万円程度
広告宣伝費開業告知チラシ、ホームページ制作、SNS広告などで10万~100万円程度
求人・採用費求人媒体掲載料、面接交通費などで5万~30万円程度
開業準備の交通費・通信費取引先訪問や電話・ネット環境整備に1万~5万円程度
営業用備品・消耗品費パソコン、プリンター、文具、名刺、制服などで5万~20万円程度
開業前研修・教育費スタッフ研修、講習会費などで数万円~10万円程度
保険加入費自動車保険・損害保険・労災保険加入時の初期費用で数万円程度
開業イベント費オープニングキャンペーン、挨拶回り、ノベルティ制作などで5万~20万円程度
接待交際費取引先との打ち合わせ・開業前の関係構築費など3万~20万円
市場調査費需要調査・競合分析・アンケート実施など5万~20万円
印鑑や名刺の作成費法人印・角印・名刺印刷など1万~5万円

なお、事業内容によっては、上記で挙げた費用がかからない場合もあります。

上記で挙げた費用を利用した場合、これらはすべて「繰延資産(開業費)」として計上でき、支出した年度に一括で損金処理するか、数年かけて償却することが可能です(法人税法施行令第14条第3項)。この「創立費」「開業費」の勘定科目は、繰延資産(くりのべしさん)と呼ばれる「資産」であり、創立費・開業費を計上しただけでは経費として扱われません。繰延資産は税務上、任意の期間において経費として計上可能です。

つまり、経費が発生した設立事業年度で必ずしも経費計上する必要はなく、利益が多く出た事業年度に経費処理できるため、スタートアップ時期の節税対策としては非常に有効な勘定科目といえます。

会社設立時の経費の会計処理

会社設立時には、登記手続きや定款作成、専門家への依頼費用など、さまざまな支出が発生します。これらの費用をどのように会計処理するかによって、節税効果や財務状況の見え方が大きく変わります。設立にかかった支出は、すべてをその年の経費とするわけではなく、「創立費」「開業費」「資産計上」など、内容に応じて分類する必要があります。本章では、それぞれの仕訳方法について、具体例を交えながらわかりやすく解説します。

創立費の仕訳

創立費とは、会社を設立するために発生した費用で、登記や定款認証、設立手数料など、会社が成立するまでに要した支出を指します。これらは「繰延資産」として計上し、支出時に一度「資産」として記録し、後に費用として償却していくのが正しい処理方法です。

創立費の仕訳をする際は、勘定科目「創立費」を用います。たとえば、会社設立のために司法書士報酬を現金で10万円支払った場合の仕訳は以下になります。

借方貸方摘要
創立費100,000円現金100,000円司法書士報酬

登記完了後、事業開始年度に償却を行う場合は以下のように処理します。

借方貸方摘要
創立費償却100,000円創立費100,000円司法書士報酬全額償却

創立費は5年以内の任意の期間で償却できますが、実務上は「設立初年度に全額費用化」するケースが多いです。また、領収書や請求書はすべて保存し、どの支出が設立前の費用に該当するかを明確にしておくことが重要です。こうした正しい会計処理をすることで、節税効果を最大限に引き出し、税務調査でも安心できる経理体制を整えられます。

開業費の仕訳

開業費とは、会社設立後から実際に営業を開始するまでの間に発生した費用を指します。たとえば、広告宣伝費、従業員採用費、研修費、接待交際費、市場調査費、印鑑や名刺の作成費、開業準備に関する旅費交通費などが該当します。これらは将来の利益に貢献する支出とみなされるため、「繰延資産」として計上し、後から費用化する仕組みです。

開業費は支払時に「資産」として処理し、事業が軌道に乗った後で任意に償却(費用化)します。たとえば、開業準備中に宣伝活動を行った場合の仕訳は以下のようになります。

借方貸方摘要
開業費200,000円現金200,000円広告宣伝費

事業開始後、開業費を償却する際は次のように記入します。

借方貸方摘要
開業費償却200,000円開業費200,000円広告宣伝費全額償却

開業費は、創立費と同様に5年以内で任意の期間にわたって均等償却できますが、多くの中小企業では初年度に全額費用化する方法が一般的です。なお、開業費に該当する支出と通常の経費(通信費・消耗品費など)を混同しないよう、支出目的を明確に記録しておくようにしましょう。そうすると、会計処理が正確になり、税務上のトラブルを防げます。

設立前の出費を経費計上する時に注意すべきことは?

会社設立前の出費も、一定条件を満たせば経費として計上できます。しかし、何が経費として認められるか、どのような書類を残す必要があるかを正しく理解しておかないと、税務上のトラブルにつながる可能性があります。領収書やレシートの管理方法、出金伝票の記録、そして経費にならない費用の範囲など、設立準備段階で注意すべきポイントを押さえることが重要です。本章では、設立前に支払った費用を正しく経費計上するための具体的な手順や注意点を詳しく解説します。

領収書を保管しておく

会社設立にかかる費用を経費として認めてもらうためには、支出を証明できる書類の保管が欠かせません。まず基本は領収書です。例えば、定款認証手数料や公証人費用、司法書士報酬など、支払いを証明できる領収書をすべて残すことで、経費として計上可能になります。近年ではペーパーレス化が進み、領収書をスキャンして電子保存するケースも増えています。電子帳簿保存法に沿って保存すれば、紙の原本と同様に税務上の証拠として認められます。

領収書が手元にない場合は、レシートでも経費計上が可能です。ただし、購入日、購入場所、購入内容、金額が明確に記載されていなければなりません。なお、宛名がなければレシートを領収書の代わりにできないと思われることがありますが、実は宛名がなくても、支出内容が特定できれば経費として認められる場合もあります。

また、電車代やタクシー代のように領収書やレシートが発行されない場合は、出金伝票を作成します。出金伝票には支払日、支払先、金額、勘定科目、摘要を正確に記入することが必須です。不備があると経費として認められないことがあるため、記録は漏れなく詳細に行いましょう。

経費にならないものを把握しておく

会社設立のために支払った費用の多くは経費に計上できますが、すべてが対象になるわけではありません。設立準備に関連して発生する費用でも、経常的な運営費や資産取得費は原則として経費にはなりません。たとえば、事業税や固定資産税、土地や建物の賃料は設立費用として認められません。また、商品の仕入れ費用、通信費、光熱費、従業員の給与も設立前の支出としては経費にできません。

一方、定款認証費用や登記手数料、印鑑作成費、市場調査費、接待交際費など、会社設立に直接関連する支出は経費として計上可能です。たとえば、法人化のために作成した名刺や印鑑の費用、設立前の営業活動に伴う交通費や市場調査費も含まれます。

これらを経費に含めるには、設立準備段階で支払った支出であることを明確にして領収書や出金伝票で証明することが必須です。経費として認められる範囲とそうでない範囲をあらかじめ把握し、適切に記録しておくことで、税務申告時のトラブルを防げるでしょう。

会社設立時の経費で節税効果を高めるには

会社を設立する際には、定款作成や登記手続き、資本金の払い込みなど、さまざまな費用がかかります。特にタクシー事業などでは、車両購入や営業所の準備など初期投資が大きくなる業種では、設立費用をおさえる取り組みが欠かせません。費用を削減することで、初期段階の経営リスクを軽減できます。では、どのような対策があるでしょうか。

会社設立費用を削減するおすすめの方法は、電子システムの利用です。会社設立時の定款作成には、紙定款の場合4万円の印紙税がかかります。しかし、電子定款を利用すると印紙税が不要になるため、設立費用を大幅に削減できます。電子定款はPDF形式で作成し、公証役場の専用端末を使ってオンライン認証を受ける方法です。この方法で、紙の印刷・郵送コストも削減でき、効率的に手続きを進められます。中小企業や個人事業主が株式会社を設立する際には、最も手軽で確実なコスト削減策として活用されています。

資本金を1,000万円未満にする方法も効果的です。もし、資本金を1,000万円以上に設定すると、設立初年度から消費税の課税対象となり、法人税申告も複雑化します。最低限必要な資本金を設定すれば、払い込み負担や税務処理の負担を減らせます。例えば、合同会社は1円から設立可能で、株式会社でも500万円程度に設定すれば設立コストを抑えつつ、事業運営に必要な資金も確保できます。ただし、開始する事業内容によっては、この限りではないでしょう。起業する事業に即した、無理のない資本金設定が経費削減のポイントです。

会社設立費用を抑えるには、自治体の支援制度を利用するのが効果的です。例えば、東京都では、都内で創業を予定する方や創業5年未満の中小企業者を対象に、創業初期に必要な賃借料・広告費・人件費など経費の一部を支援する「創業助成事業」を実施しており、助成額は最大400万円、助成率は対象経費の2/3以内とされています。

出典:東京都産業労働局 東京創業NET 創業助成金

これらの支援制度を活用する際は、各市区町村の商工会議所や創業支援センターなどの窓口で詳細を確認し、申請手続きを進めましょう。申請には一定の要件や期限が設けられている場合があるため、早めの情報収集と計画的な実行が肝心です。

まとめ

会社設立時には、定款作成や登記手続き、専門家への依頼費用など、多くの初期費用が発生します。

設立前の支出は「創立費」、設立後から営業開始までの支出は「開業費」として繰延資産に計上でき、任意の期間で費用化して節税効果を高められます。

また、電子定款の活用や資本金の適正設定、自治体の創業支援制度を活用すると、設立コストの削減も可能です。

これらを正しく理解し、領収書や出金伝票を管理して、効率的に会社設立を進めましょう。

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