■テーマ だんだん忙しくなってきた! 創業経営者が従業員を雇用する時の費用と、意思決定
前回は、「致命的な値下げ、効果絶大の値上げ」というテーマでお送りいたしました。
このテーマはいつにも増して、多くの反響を頂戴しました。値上げって怖いですよね。
でも、値上げの効果は大きく、値下げ悪影響は計り知れないというお話でした。
先日お会いしたある経営者の方は、年に1回くらい値上げをしているけど、
「値上げして後悔したことは一度もない、いいことばっかりだ」とおっしゃってました。
さて今回は、
「段々忙しくなってきた!創業経営者が、従業員を雇用する時の費用と、意思決定」
というテーマです。
一人で起業して、まずは売上を上げるのが第一です。売上が上がってくると、忙しくなってきて、
営業ができなくなったり経営者として仕事をする時間がなくなるので、売上が伸びにくくなるなど、
非常に激務になってきます。
そんなとき、「人を雇いたい」となってくるのが常ですが、
人を雇うにはどのような費用がかかるのか、どのような意思決定をすればいいのか、
今回は、そんな話をしたいと思います。
■従業員の雇用形態
従業員の雇用形態としては、様々な形態があります。
正社員を含めると以下のようになっています。このうち、以下で★のついた②、⑥~⑧は雇用関係ではなく、
②は派遣会社に雇用されている、⑥~⑧は事業主という立場になります。
参考:厚生労働省のHP
①正社員
★②派遣労働者
③契約社員
④パートタイム労働者
⑤短時間正社員
★⑥業務委託契約(外注者)
★⑦家内労働者
★⑧在宅ワーカー
■雇用にかかる費用
①直接的な費用
これまで、一人でやってきた社長が、月給30万円の正社員を一人雇う場合、
どのくらいの費用がかかるのか、検証してみましょう。
・給料30万円
・交通費
⇒通勤定期代9,000円とする。
・社会保険料44,616円
⇒会社が人を雇用して給料を支払う場合、社会保険への加入が強制されます。
社会保険がとても高いのです。
すなわち、給料30万円の従業員を雇用するのに、会社の負担としては
353,616円がかかるという計算です。
この例でみると、給与総額の18%増しですから、事業計画策定の際には留意が必要ですね。
②間接的な費用
上記は直接的な費用なので、より分かりやすいですが、
これ以外にも間接的な費用も考えると、結構あります。
●採用費
⇒求人広告や、人材紹介会社に支払う金額。
現在うちが利用している有名な媒体に求人広告を出すと、1週間の掲載で15万円以上かかります。
しかも、人材獲得の保障はナシですからね。
紹介会社に頼むと、成果報酬ですが、入社する方の年収の3割などを紹介料として支払うこととなります。
そこまでして、獲得した人材も、短期で辞めちゃう可能性もあるわけですからね。
本当に大変です。
●人事制度や、就業規則などの体制整備にかかる費用
⇒人を雇用するとなると、「定時は?」「定休は?」「残業代は?」「社会保険は?」となるわけで、
人事等や就業についての一定の決まりを整備する必要があります。
「常時10名」の労働者を使用する会社は、しっかりとした就業規則を定めて
所轄の労働基準監督署長宛てに提出しなくてはならないのですが、そこまでいかないまでも、
ある程度の勤務条件と報酬のルールなどはしっかりしないといけないことになります。
●事務所移転費用
⇒もし、自宅で一人で仕事をしていたとか、シェアオフィスの一人部屋を使っていたとすると、
もう一人の勤務場所を確保するのに、広いオフィスを借りたり、シェアオフィスの二人部屋に
ランクアップしなくてはならないかもしれません。
●事務所備品、PCなど
⇒その人がPCで仕事したりするなら、追加のPC、机やイスが必要ならそれも
購入するかリースにより準備しなければなりません。
●教育費用
⇒人材の経験や性格にもよりますが、雇ったとたんに、すぐに戦力として
働けるかどうかはわかりませんし、通常は仕事を覚えるまでの期間は非効率であったり、
研修期間であったり、ある程度の教育費用はかかると考えられます。
と、このように、人を雇用して働くということは、たくさんの投資が要ります。
しかし現在、国内の労働市場は、労働人口の不足、採用競争の激化によって、
「売り手市場」になっています。
今後は、ボトルネックが「人」となる会社も増えてくるのではないでしょうか。
これまでは、「営業・マーケティング」で勝てれば勝てたわけですが、今後は、
「採用・人事」で勝てなければ、勝てない時代になるのではないかと私は思っています。
■雇用するかどうかの意思決定について
雇用することで上記のような費用がかかりますが、それでも、
「雇用するのかどうか」の意思決定をする際に、最も考えなくてはならないのは、
①雇用した人に、給料を毎月支払っていけるのか?
というキャッシュ・フローの問題です。
払えなくなると、労働者にも迷惑がかかってしまいます。
事業ですから、100%ということはなく、リスクは常にありますが、現状の売上や、
経費の状況から見て、その人に例えば(諸々含めて)35万円払っても、
資金的には回っていくのかどうかです。
シンプルですが、一人で起業して、売上収入120万円、経費支出40万円、自分の生活費30万円
という状況が安定しているのであれば、(諸々含めて)35万円の人件費を支払うことは可能ですよね。
例えば飲食店経営で、最初から数人を雇わないと事業がスタートできないような場合は、
別の判断になりますが、この場合も、給料が支払える前提で、
当初の事業計画と開始時の運転資金を準備しておくことが必要になります。
それから、人件費を支払うことが目的ではなくて事業の拡大が目的ですから、
支出に以上のものが得られるかどうかについても検討しなくてはなりません。
人を雇うことで得られるもの、創業経営者にとって、それは「経営者自身の時間」です。
よって、二つ目の考慮事項としては、
②経営者自身の自由な時間が増えることで、人件費よりも多くの経済的利益を生み出せるか?
ということになります。
この点にも、不確実性がありますが、まずは経営者自身に何をして経済的利益を
生み出すかというイメージできているかどうか、その自信・意欲があるか、ということになると思います。
シンプルにいうと、35万円の人件費よりも多くの利益を獲得できるかどうかということになります。
雇用して経営者自身の時間が自由になることで、35万円よりも大きな利益を
獲得できるのであれば、雇用してよいという判断になります。
よくあるのは、段々仕事が入ってきて忙しくなると、経営者はやりたいことがたくさんあるのに、
忙しくて新しいことをやる時間がない。という状況になります。
そんな状態になったら、上記を考慮の上、人を雇用することを考えてもよいかと思います。
■一人で起業、人を雇ってはじめての経営
ここまで、人を雇用するためのコストと雇用する際の意思決定についてお話しましたが、
サラリーマンと経営者の違いは何かと言われたら、雇用するのが経営者、
雇用されるのがサラリーマンと言えるかもしれません。
事業をより大きくするという前提において、より多くのお客さまを幸せにすることが
会社・経営者の使命のように思われますが、それと同様に、より多くの従業員を幸せにできる
会社・事業を作ることも同様に課せられているように思います。