軽貨物運送業は、小回りの利くサービスとして需要が高まっています。気軽に始められそうだと、起業を検討している方もいらっしゃるのではないでしょうか。しかし、会社設立には事前に理解しておくべき手続きや注意点があります。特に会社を設立するなら適切な準備が欠かせません。
そこで本記事では、軽貨物を扱う会社設立の流れや手続き方法、押さえておくべきポイントを分かりやすく解説します。初めて会社設立に挑戦する方でも安心して進められるよう、順を追って説明していきますので、ぜひ最後までご覧ください。
軽貨物を扱う会社設立の手順
軽貨物を扱う会社設立の手順を紹介します。開業届を出すまでの手順があるため、よく確認しておきましょう。
駐車場・車庫を確保する
運送業をはじめるにはまず、営業所の近くに車庫が必要です。車庫の場所や条件が審査対象にもなるため、営業所の近くに車庫を確保する必要があります。具体的な距離基準は地域ごとに異なるため、事前に管轄の運輸支局で確認しましょう。その際、都市計画法や建築基準法に適合しているかもあわせて確認が必要です。なお、車庫は賃貸でも問題ありませんが、契約内容が業務使用に対応しているか確認しましょう。また、車庫を新設する場合、法令を遵守し、適切な手続きを行う必要があります。法令に適合していない車庫は運送業の許可が下りないため、事前に計画立てて調査をしておきましょう。
車両を購入する
会社設立後に必要なのが、軽貨物運送用の車両の準備です。中古車両を購入する場合でも、車検証の用途が「貨物」になっているかを必ず確認しましょう。用途が異なる場合は、軽自動車検査協会で貨物用途への変更検査を受ける必要があります。また、初期費用を抑えたい場合や、事業の安定性に不安がある場合は、車両をリースやレンタルする選択肢も有効です。
任意保険・貨物保険に加入する
軽貨物運送業では、自賠責保険だけでは補償範囲が限られるため、任意保険と貨物保険に加入しておきましょう。任意保険は法的な加入義務はありませんが、万が一の事故による損害賠償リスクに備え、加入しておくのが望ましいです。また、貨物保険に加入することで、運送中の貨物の破損や盗難などにも対応できます。特に高価な商品や精密機器を運ぶ場合、信頼を得るためにも加入しておくことをおすすめします。
貨物軽自動車運送事業経営届出書を管轄の運輸支局に提出、黒ナンバーの取得
軽貨物運送事業を始めるには、使用車両の登録と黒ナンバーの取得が必要です。提出先は管轄の運輸支局で以下の書類を提出します。
貨物軽自動車運送業経営届出書の他に必要な書類 |
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事業用自動車等連絡書 |
車検証のコピー |
運賃料金表 |
その後、軽自動車検査協会で黒ナンバーを申請します。黒ナンバーは軽貨物運送業を行う車両に取り付けが必須のナンバープレートです。取得には、以下の条件を満たす必要があります。
黒ナンバーの取得要件 |
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軽貨物車両が1台以上ある |
営業所・休憩施設・車庫(駐車場)がある(個人事業主は自宅でもよい。また、賃貸物件も可) |
運送約款がある |
運行管理体制を整えている※ |
損害賠償能力がある |
※軽貨物運送業では、法的に運行管理者(資格保有者)は不要ですが、安全管理のために運行管理体制を整えることが重要です。
軽貨物運送事業者の登録と黒ナンバーの取得が完了したら、開業届の作成へ進みます。
開業届を提出する
開業するには以下の書類をそろえ、管轄の運輸支局で登録を行いましょう。また、青色申告を希望する場合は、開業後2ヶ月以内に「青色申告承認申請書」を提出します。これにより税務手続きが完了し、より効率的な経営が可能になります。
開業の際に必要になる書類 | |
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貨物軽自動車運送事業経営届出書 | 代表者や営業所、車庫などの設備を記載 控え用として2部作成 |
事業用自動車等連絡書 | 運送、監査部門の申請を終えている証明書 |
車検証 | 上記と一緒に提出 |
運賃料金表設定届出書 | 貨物運搬の料金表 |
軽貨物を扱う会社設立にかかる費用
軽貨物運送事業を始めるには、初期費用をしっかりと見積もることが成功の鍵となります。事業が軌道に乗るまでに時間がかかることを考慮し、余裕を持った資金計画を立てましょう。以下では、設立に必要な主な費用とそのポイントを解説します。
資本金の目安
会社設立時に必要になる費用の一つは資本金です。ルール上、資本金は1円からでも会社設立が可能ですが、社会的信用力の観点から推奨されません。特に取引先や金融機関の与信調査では、資本金額が信頼度を左右する要素となるため注意が必要です。一般的には、初期費用と3ヶ月分の運転資金を目安に資本金を設定することが望ましいです。まだ営業をしていないため概算が難しい場合は、300万円を基準にする考え方もあります。これは、貨物利用運送事業の登録要件である純資産額300万円以上という基準をもとにした金額です。
駐車場・車庫費
駐車場や車庫を確保するのにも費用がかかります。これらは、営業所や休憩所から2キロ以内の立地に確保しなければならないため、地域や場所によって費用が大きく異なります。郊外は数千円位ですが、都心部では月に数万円と高額になることが多く、毎月の負担が大きくなる可能性があります。事業計画を立てる際には駐車場費用を慎重に見積もり、運営に支障が出ないよう資金計画を立てるようにしましょう。
軽貨物車両費
荷物を運ぶための軽貨物車両の用意も必須です。車両は新車を選ぶこともできますが、初期費用を抑えたい場合は中古車を検討すると良いでしょう。状態の良い中古車であれば、おおよそ50万円程度で購入可能です。もしすでに軽貨物車両を保有している場合は、追加で車両を購入する必要はありませんが、新たに車両を準備する場合は、資金計画に基づいて計画的に取得しましょう。
保険料
軽貨物運送で必要な保険は、任意保険と貨物保険です。通常、自家用車ではなく軽貨物車両といった事業用の設定になると、保険料が高くなる傾向があります。自動車保険料は加入プランによって大きく差がでるため概算にはなりますが、車両1台あたり1万円以上と見積もっておくとよいでしょう。
税金
車両を購入したり、所有する場合には、以下のような税金がかかります。
税金の種類 | 備考 |
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軽自動車税 | 購入時や毎年4月1日時点で車両を所有している場合に課税 |
自動車重量税 | 新規登録時や車検時に必要。エコカーの場合免税・減税措置がある |
なお、車両をリースで調達する場合、税金相当額はリース料に分割して含まれる形になります。ただし、リース契約内容によって詳細が異なるため、契約時に確認しましょう。
車検費用
車検は、安全性や環境基準を満たしているかを確認するため、定期的に受ける必要があります。車検にかかる費用は、法定費用と車検基本料金に分かれます。
法定費用は業者に関わらず固定されており、以下のようなものがあります。
- ・自動車重量税
- ・自賠責保険料
- ・印紙代
一方、車検基本料金は依頼する業者によって異なり、相場は1万5,000円から3万円程度となっています。
その他、事業に必要な費用には、ガソリン代や車の維持費に関する費用、備品(台車、ガムテープなど)があります。
軽貨物を扱う会社設立時の注意点
軽貨物運送業は、初期投資が比較的低く、個人でも始めやすいビジネスとして人気があります。しかし、事業を成功させるためには、計画的な運営が必要です。そこで本章では、会社を設立する際に注意すべき点を解説します。
収支を把握しておく
収支の把握は、経営を安定させるための重要なポイントです。収支を把握するためには、まず収支計画書を作成し、毎月の収入と支出を明確にします。経費の記録も徹底し、業務に関連する支出を漏れなく帳簿に記入する習慣をつけましょう。これにより、無駄な出費を抑えられるだけでなく、税務申告時にも役立ちます。また、収支管理は短期的な安定だけでなく、将来的な事業拡大や新規投資の計画にも効果的です。収支管理を徹底することで、事業を持続的に成長させる基盤を築けます。
仕事の幅は広くしておく
軽貨物運送業を成功させるためには、仕事の幅を広げておきましょう。特定のプラットフォームや単一の取引先に依存していると、契約終了や案件減少のリスクにより、収益が不安定になる可能性があります。複数の案件を引き受けられる体制を整えると、売上の安定が期待できます。また、利益率を向上させるためには、荷主から直接案件を受ける「直請け」を目指すことも重要です。ただし、直請けには信頼と実績が求められるため、事業規模や体制の拡大が必要になる場合があります。その際は法人化やスタッフの増員を検討し、着実に準備を進めるようにしましょう。
事業主にかかる責任が重い
軽貨物運送業で会社を設立する際、事業主には法的および経営面での責任が重くのしかかる点に注意が必要です。法人化すると、税務や労務を含む法的なルールを厳守する義務が生じます。例えば、適切な税務申告や従業員管理を怠ると、罰則やペナルティが課される可能性があるため、日々の運営には慎重さが必要です。また、経営者として、会社の資金管理や取引先との契約履行など、すべての業務に対して責任を負わなければなりません。このため、専門家のアドバイスを受けたり、会計や労務管理のシステムを導入したりして、法令遵守と効率的な運営を両立させることが重要です。
まとめ
本記事では、軽貨物を扱う会社設立の流れや手続き方法、押さえておくべきポイントを解説しました。初めて会社設立に挑戦する方でも安心して進められるよう、順を追って説明しておりますので、ぜひ参考にしてみてください。
なお、はぎぐち公認会計士・税理士事務所では、起業に関するご相談も承っております。
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