飲食店を運営する中で「法人化するべきか」「いつが最適か」と悩むことはありませんか。いつ法人化するかによって、消費税の負担や手続きの影響が大きく異なります。また法人化には、社会的信用力向上や経営者の個人財産を守る有限責任などのメリットがありますが、初期費用がかかる点や税務手続きの煩雑化といったデメリットもあります。そこで、本記事では、法人化のタイミングやメリット・デメリット、注意点を解説し、法人化の是非を考えるヒントを提供します。
飲食店で法人化するタイミングはいつがいい?

飲食店が法人化を検討するタイミングは、年間売上や事業規模、将来的な計画に応じて判断するのが一般的です。例えば、以下のような時が目安になります。
- 1.年間売上が1,000万円を超えた場合
- 2.課税所得が900万円を超えた場合
- 3.従業員を雇用する予定がある場合
- 4.社会保険に加入したい場合
それぞれ解説していきます。
1. 年間売上が1,000万円を超えた場合
前々事業年度の課税売上高が1,000万円を超える場合、消費税の課税事業者に該当します。そうなると、売上に対する税金に加えて消費税の支払いも増えることになります。そのタイミングで法人化すると、現状では最大で2年間消費税の納税が免除されます。そのため、多くの場合で「年間売上が1,000万円」が法人成りの目安とされますので、法人化のタイミングを検討する際は、課税売上高の基準や対象期間を正確に把握することが重要です。(参考:国税庁ホームページ 消費税のしくみ)
2. 課税所得が900万円を超えた場合
年間売上が1,000万円を超えていなくても、課税所得が900万円を超えると、個人事業主に適用される所得税率が法人税率よりも高くなります。そのため、課税所得が900万円を超える時も、法人化するタイミングの目安になるでしょう。また、法人化すると給与所得控除も活用できるため、個人への報酬を合理的に設定すれば、さらなる税負担軽減が期待できます。さらに、法人化すると経費として計上できる項目の幅も広がるため、利益の調整もしやすくなります。
3. 従業員を雇用する予定がある場合
従業員を雇う予定がある場合も、法人化するタイミングになります。まず、法人化すると社会的信用力が向上するため、人材確保がしやすくなります。また、前述にもあるように、給与所得控除が利用できるようになります。
4. 社会保険に加入したい場合
法人化すると、社会保険への加入が義務になります。個人事業主では社会保険が適用されないため、事業主や従業員の老後の保障を確保するのは難しいかもしれません。しかし法人化すると、社会保険の適用が義務付けられるため、事業主や従業員の保障が確保できるので 福利厚生が充実し、従業員の満足度や定着率の向上も期待できます。結果として、後々の事業運営における大きなメリットとなります。
ただし、後にも説明しますが、法人化には設立費用や運営コストがかかったり、赤字でも法人税が発生する場合があります。大切なのは、これらを総合的に判断し、自身の事業にとって最適なタイミングを見極めることです。
軽飲食店で法人化するメリット

個人事業主ではなく、法人化して飲食店を経営するのにはどのようなメリットがあるでしょうか。
信用力向上が期待できる
飲食店が法人化する大きなメリットの一つが、信用力の向上です。法人化すると、取引先や金融機関、顧客からの信頼向上が期待できます。法人となると、組織としての安定性や継続性が認められやすくなり、事業の信頼性が強化できるでしょう。法人化していると、交渉がスムーズに進み、取引先とも大規模な契約や長期的な取引を結びやすくなる効果も期待できます。信用力の向上は、事業の発展や規模拡大の基盤になるため、法人化のメリットです。
税制が優遇される
個人事業主よりも税率が低い法人税が適用され、利益が大きい場合に節税効果が期待できる点もメリットです。例えば、個人事業主では所得税の累進課税制度によって、利益が増えるほど税率が高まります。しかし、法人税は税率が一定です。また、赤字が発生した場合、その赤字を最大10年間繰り越して利益と相殺できる「欠損金の繰越控除」を活用できる点も大きなメリットです。
経費の幅が広がる
法人化すると、個人事業主よりも経費として認められる範囲や金額が拡大します。社宅費や交際費、役員報酬など、個人事業主では認められない経費も法人では経費として計上できるため、税負担を減らすことができます。さらに、役員報酬や福利厚生費、退職金の積立なども経費に算入可能です。個人事業主よりも法人の方が、経費として認められる範囲が広がる点がメリットになります。
責任が限定化される
法人化すると、経営者個人の責任が有限責任に限定されます。法人の債務は、法人の財産の範囲内でのみ責任を負い、それ以上の負債を個人が抱えることは無いようになっています。例えば、出資した飲食店が借金を抱えて倒産しても、法人代表者は出資金のみ失いますが、原則として会社の借金を肩代わりして返済する必要はありません。個人が事業で生じた債務を履行しなければならない個人事業主とは異なり、経営者個人の財産が保護されます。法人化すると、リスクの高いビジネス展開も安心して行えるようになります。
社会保険が適用になる
法人化した場合、事業主や従業員は健康保険や厚生年金に加入する義務が生じます。社会保険が整備されると、事業主自身や従業員がより安心して働ける環境になるでしょう。厚生年金や健康保険の整備で、老後に受け取れる年金額の増加や、長期的な生活の安定を提供できます。これらは従業員のモチベーション向上にもつながり、人材の定着率を高める効果もあります。
軽飲食店で法人化するデメリット

さまざまなメリットがある飲食店の法人化ですが、逆にデメリットになることはあるでしょうか。
設立費用がかかる
飲食店が法人化するデメリットの一つは、設立時に多くの費用がかかることです。まず、会社を設立するためには登記が必要で、その際に登録免許税が発生します。例えば、株式会社を設立する場合、最低でも15万円の登録免許税が必要です(※)。また、定款を作成する際には公証人役場で認証を受ける必要があり、その費用が5万円程度かかります。さらに、法人設立には印鑑作成費用や登記簿謄本の取得費用、場合によっては司法書士や税理士など専門家への依頼費用も発生する可能性があります かもしれません。初期費用の負担が大きい点は、小規模な飲食店事業者にとって大きなハードルになります。
(※)一方、合同会社では登録免許税が6万円となり、設立費用を抑えることが可能です。法人形態による費用の違いを理解し、事業規模や計画に応じて適切な選択を行いましょう。
運営コストが増える
運営コストが増加する点もデメリットです。法人化すると、税務申告や会計処理がより複雑になります。スムーズに経理や財務をこなすためには、税理士や会計士に依頼しなければならないでしょう。その結果、顧問料や決算書作成費用が発生します。これらに加え、法人設立後は毎年の決算書作成や税務申告など、個人事業に比べて継続的に運営コストが増える点も考慮しなければなりません。また、法人は個人事業主と異なり、利益が出ていなくても一定の法人住民税を納める必要がある点もデメリットです。
利益配分の自由度が下がる
利益配分の自由度が下がる点も法人化のデメリットです。個人事業主の場合、得られた利益は全て事業主の収入として自由に利用できますが、法人化すると利益は会社のものとされ分配には制限がかかります。具体的には、法人が利益をオーナーに還元するためには役員報酬や配当金という形をとらなければなりません。役員報酬はあらかじめ決めた金額に基づき、年度途中で変更する場合には税務上の手続きが必要です。さらに、配当金を受け取る場合は、法人税を引いた後の利益から支払われ、個人で受け取る際にも所得税が課税されてしまいます。個人事業主の時のような、資金の自由な配分ができなくなる点は法人化のデメリットです。
飲食店で法人化する時の注意点

飲食店を法人化する場合、事業運営で注意すべきなのはどのような点でしょうか。
改めて飲食店営業に関する許可・届出が必要になる
個人事業主で飲食店営業許可を取得していた場合、法人化するにあたり飲食店営業許可は取り直しになる点に注意が必要です。営業許可証は、法人名義で新たに申請し直さなければなりません。許可の再取得には、保健所への申請や再検査が含まれるため、手続きのスケジュールは十分に考慮するようにしましょう。また、深夜にアルコールを提供する場合は、「深夜酒類提供飲食店営業の届け出」も忘れてはいけません。これらは速やかに、関係各所へ届け出ましょう。
消費税の納税義務
消費税への対応にも注意が必要です。課税売上高が1,000万円を超えると納税義務が発生しますが、売上基準を満たした年の翌々年度から課税対象になります。この仕組みを利用すれば、売上が1,000万円を超えた場合でも、個人で2年間免税された後に法人化するとさらに2年間の免税を受けられる可能性があるのです。一方、売上が基準額を超えた直後に法人化すると、個人での免税期間が失われてしまいます。
消費税の納付額は大きく、会計処理も複雑なため、はじめのうちは対応に苦労するかもしれません。だからこそ法人化のタイミングは、売上状況や将来の計画を総合的に判断する必要があります。そのため、事前に専門家や税理士に相談することを強くおすすめします。
まとめ
本記事では、飲食店を法人化するタイミングやメリットとデメリット、法人化する時の注意点を解説しました。
下記のリンクはこれから法人化される方が知っておくと役に立つ情報が満載ですので、ぜひ参考にしてください。
なお、はぎぐち公認会計士・税理士事務所では、飲食店の法人化に関するご相談も承っております。
どうぞ、お気軽にお問い合わせください。