不動産賃貸業を運営していると、節税や経営の効率化を目的に「法人化」を検討する場面が出てきます。法人化すると、税負担の軽減などが期待できる反面、費用や手続きが増加するといったデメリットも伴います。
そのため、法人化のタイミングは慎重に判断しなければなりません。
そこで本記事では、不動産賃貸業の法人化を検討するメリットやデメリットをふまえ、法人化の目安や手順を解説します。法人化を成功させるためのポイントを押さえ、最適な経営戦略を立てる参考にしてください。
不動産賃貸業を法人化する時のメリット
不動産賃貸業をしていると、仕事の規模が拡大するにつれ法人化を検討するようになられたでしょう。
ただ、実際に行動すべきかはメリットやデメリットを検討すべきです。本章ではまず、不動産賃貸業を法人化するとどのような点でメリットがあるかみていきましょう。
経費の範囲が広がる
不動産賃貸業を法人化すると、個人事業と比べて経費として認められる範囲が広がる点がメリットになります。
個人事業では、事業の収益から必要経費を差し引いた金額がそのまま個人の所得になり、代表者自身の給与という概念が存在しません。
しかし、法人化すると法人と代表者は別の法的主体となるため、法人の収益から役員報酬を支払えるようになり、一定の条件を満たせば役員報酬が法人の経費として認められます。
さらに、家族などの親族に対しても、法人から正当な給与を支給でき、これも法人の経費として処理できます。
加えて、法人名義で加入する生命保険の種類によっては、支払った保険料の一部を損金に算入できるケースもあり、節税の選択肢が広がる点も法人化の魅力です。
節税になる
所得税の負担を軽減できる余地があるのも、不動産賃貸業を法人化するメリットです。
不動産を所有している場合、家賃収入はすべて個人の所得として計上され、高額所得者になれば累進課税で税負担が増大します。
しかし、法人税率は累進課税の個人所得税率に比べて一定の範囲内で低く抑えられるため、長期的な節税効果も期待できます。例えば、個人事業主の場合、課税所得が695万円を超えると所得税率は23%になり、900万円に達すると33%まで引き上げられます。
一方で、法人として経営する場合、法人税の税率は課税所得800万円までの部分は15%、800万円を超えた部分には23.2%の税率が適用され、以後は一律になります。
そのため、一定の所得以上の収入がある場合は、法人税の方が故人の累進課税よりも少なくなるのです。また、法人は、得た収益を法人内に留保する部分と、役員報酬や給与として分配する部分に分けることが可能です。
これにより、代表者個人が受け取る報酬額を適切に調整することができ、高額所得になると増える税負担を軽減できます。そのため、個人事業では一人に集中してかかっていた税負担を軽減し、最適化して所得税を節税することができるのです。
赤字を繰り越せる
事業で生じた赤字を長期間繰り越して相殺できる点もメリットです。
個人事業の場合、青色申告を行って繰り越せる事業所得の赤字は最大3年間までです。一方、法人として青色申告を行うと、法人税法上の規定で欠損金(赤字)は、最大10年間繰り越せるようになります。
特に、不動産賃貸業では、初期投資や修繕費などで赤字が発生しやすく、事業で赤字が出た場合、その年に払う税金はゼロになります。
通常は、翌年以降に利益が出たら、その利益に対して税金がかかるところを、赤字を繰り越せると、過去の赤字と利益を相殺できるため、税金を減らせます。法人なら 10年間赤字を繰り越せるため、長期的に節税できるのが大きなメリットです。
不動産賃貸業を法人化する時のデメリット
法人化するとよいことがありますが、そればかりではありません。この章では法人化するときのデメリットを紹介します。
会社の維持費がかかる
不動産賃貸業を法人化するとさまざまなメリットが期待できる一方で、法人ならではの維持費がかかる点はデメリットになります。
個人事業として運営する場合は、税務申告や会計業務にかかるコストが比較的少なく、開業後の運営費用も抑えやすいです。
しかし、法人を設立すると、毎年一定の費用が必要となります。
まず、法人の会計処理は個人事業よりも複雑になるため、税理士に依頼するケースが多くなります。その結果、税理士報酬として毎月数万円、決算時にはさらに費用がかかることもあります。
法人は設立登記が必要で、登録免許税や定款認証の手数料などの費用が発生します。さらに、社会保険の加入義務が加わるなど、個人事業にはないコストが継続的にかかる点も考慮すべきです。
赤字でも法人住民税の支払いが必要になる
法人化すると、事業の利益が出ていない場合でも支払わなければならない税金が発生します。代表的なものは「法人住民税の均等割」で、赤字でも毎年7万円程度の法人住民税を支払わなければなりません。
この金額は、法人の資本金や事業規模、所在地の自治体によって変動しますが、基本的に事業を継続している限り免除されない負担になります。
特に、不動産賃貸業は初期投資が大きく、設立当初は赤字になる場合もあるでしょう。そのため、利益が出ていない状況でも法人住民税の支払いが発生すると、資金繰りに影響を与えるかもしれません。
不動産取得と登記に費用がかかる
不動産賃貸業を法人化する際には、不動産取得税や登記費用といったコストが発生する点に注意が必要です。
個人が所有している投資用不動産を法人名義に変更するには、所有権の移転手続きを行わなければなりません。登記手続きを伴うには、移転登記の費用が必要になります。
また、個人で持っていた不動産ですが、名義を変えると法人が新たに取得した不動産とみなされるため、不動産取得税の納税義務も生じます。
さらに、移転方法は売買や贈与などの選択肢があり、それぞれ必要な手続きや発生する費用が異なります。こうした手続きやコストの負担が不動産賃貸業を法人化するデメリットの一つになります。
不動産賃貸業を法人化するタイミングは?
不動産賃貸業を法人化するタイミングは、税負担・収益規模・融資活用などの観点で判断します。例えば、以下が目安になります。
1.課税所得が900万円以上になる時
2.売上高が1,000万円を超えて消費税の課税対象事業者になる時
3.事業規模を拡大したい時
目安の一つは、課税所得が900万円以上になる時です。個人の所得税は累進課税で税率が高くなりますが、法人税は一定の割合で抑えられるため、法人化によって節税効果が期待できます。
次に、売上高が1,000万円を超えて消費税の課税対象事業者になる時も法人化のタイミングです。法人なら2年間の消費税免税期間を活用できるため、税負担を軽減できます。
また、事業規模を拡大したい時も法人化が有利です。現在はそこまで規模は大きくなくても、今後不動産投資を拡大していく予定がある場合には、個人で不動産賃貸業を行うと将来的に税率が高くなる可能性があります。
また法人の方が金融機関の評価が高まり、融資を受けやすくなるため、新たな物件購入や事業の拡大がスムーズになります。以上の点を考慮し、最適なタイミングで法人化を検討しましょう。
不動産賃貸業で法人化する手順
不動産賃貸業を法人化する手順は以下のステップで行います。
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- 1.法人の種類と設立方法を決定する
2.法人の基本情報を設定する
3.定款を作成し必要に応じて認証を受ける - 4.資本金を払込む
5.役員を選任する - 6.法務局で法人の設立登記を行う
7.法人化後に必要な契約を締結する
- 1.法人の種類と設立方法を決定する
不動産賃貸業を法人化するには、まず法人の種類(株式会社・合同会社など)と設立方法を決める必要があります。法人形態によって、設立費用や税務上のメリットが異なるため、自社に適した形式を選択することが重要です。
次に、法人の基本情報として法人名、事業目的、役員構成、資本金を決め、法人の運営方針を明確にします。その後、定款を作成し、株式会社の場合は公証役場で認証を受けます。定款には法人の基本的なルールが記載されるため、慎重に作成しましょう。
資本金は、発起人や出資者が指定口座へ払い込む必要があります。この際、以後の登記手続きで必要になるので払い込みの証明は保管しておきましょう。
株式会社を設立する場合は、役員を選任し経営体制を整えます。その後、法務局に必要書類を提出し、法人の設立登記を行います。
登記の方法には、窓口での提出とオンライン申請があり、オンライン申請では電子証明書が必要です。登記完了後、法人化に伴う契約の手続きを進めます。
たとえば、個人が所有する不動産を法人へ移転する場合は不動産売買契約や管理委託契約を締結し、法人としての運営を開始します。事前に手続きを把握しておくとスムーズに法人化を進められます。
まとめ
本記事では、不動産賃貸業を法人化するメリットとデメリット、法人化するタイミングや設立の手順を解説しました。これから不動産賃貸業で法人化される方が知っておくと役に立つ情報が満載ですので、ぜひ参考にしてみてください。
なお、はぎぐち公認会計士・税理士事務所では、不動産賃貸業の法人化に関するご相談も承っております。
どうぞ、お気軽にお問い合わせください。