民泊を個人事業で運営している方の中には、事業が拡大する中で法人化を検討し始める方もいらっしゃるでしょう。しかし、法人化にはタイミングや手続き、メリット・デメリットなど、さまざまな要素を考慮する必要があります。本記事では、民泊の法人化を成功させるためのタイミングやメリット・デメリットや手続きのステップをわかりやすく解説します。これから法人化を考えていらっしゃる方はぜひ参考にしてください。
民泊を法人化するタイミング
当初は個人事業として運営していても、事業の成長とともに、法人化を検討すべき場面は出てくるものです。では法人化すべきかはどのように判断すればよいでしょうか。そこで本章では、利益や事業規模、将来の展望をふまえ民泊を法人化すべきタイミングを解説します。
年間の利益が800万円を超える場合
民泊経営者が法人化を検討するタイミングは、課税所得が800万円を超える場合が一つの目安となります。個人事業主の場合、所得税は累進課税で、800万円を超えると税率は23%、900万円を超えると33%です。一方、法人化すれば中小企業の法人税率は800万円以下で19%、それを超えても23.2%になっています。このラインを超えてくると、法人化することで税負担を軽減しやすくなり、利益を役員報酬や経費として柔軟に分配できるメリットも生まれます。例えば、複数の物件を運営し、インバウンド需要や長期滞在の予約が安定して入っているようなケースでは、年間所得が800万円を超えることも珍しくありません。経営が安定し、将来的な物件拡大を視野に入れるなら、法人化は有効な選択肢です。
物件を複数管理・運営していく場合
物件数が1件から2件、3件と増えてくると、運営規模も大きくなり、管理や会計が複雑化します。法人にすることで、支出・収入の区分けや人員の雇用、業務の外注化がしやすくなり、経営の効率が上がります。例えば都市型マンションと地方の古民家宿を両方運営する場合、それぞれの物件を法人単位で管理するのが実務上も合理的です。
家族に報酬を分配して節税したい場合
民泊事業を家族ぐるみで行っているなら、法人化により家族を役員にして報酬を分配することで所得を分散し、節税が期待できます。例えば、清掃やゲスト対応を家族で分担している場合、それに見合った給与を支給することで、税負担を軽減しながら家計に還元することも可能です。
民泊に加え他のビジネスも始めたい場合
法人化すると、民泊に限らず他の事業展開がしやすくなります。例えば、宿泊者向けの飲食事業や地域体験ツアーの企画販売など、多角的な収益モデルを構築する場合、法人での契約や口座運用の方が管理面でも有利です。将来的に民泊を「地域観光ビジネス」の一環として拡大したいなら、法人化は大きな一歩となります。
不動産の継承や資産保全を意識し始めた場合
民泊物件が資産として育ってきたら、相続や資産保全の観点から法人化を検討する価値があります。不動産を法人名義にすれば、相続時の資産評価額が圧縮されやすく、税負担の軽減が見込めます。例えば、家族経営で代々続けていく古民家民泊などは、法人所有にすることで承継しやすくなります。一方、個人事業主のままだと、相続人全員の共有名義となり売却も運営も進まなくなるケースも発生するかもしれません。こうしたリスクを回避し、将来にわたり円滑に事業を引き継ぐためにも、法人化は有効な手段です。
民泊を法人化するメリット
民泊運営が軌道に乗ってきたタイミングで法人化を検討することで、事業としての可能性をさらに広げることができます。税制面での優遇や、対外的な信用力の向上など、法人化には多くの実利的なメリットがあります。ここでは、民泊ならではの視点から、その具体的な利点を見ていきましょう。
民泊運営にかかる経費の幅広い計上が可能になる
法人になることで、経費として認められる項目が広がるため、実質的な節税が可能になります。例えば、民泊用に使用する車両のリース費用や、家族を従業員として雇った際の給与も、法人であれば経費として計上可能です。さらに、運営に使うパソコンやソフトウェア、広告宣伝費なども法人名義で購入・契約すれば、明確に経費処理できるようになります。
物件取得の選択肢が広がる可能性がある
民泊を法人化することで、物件取得や賃貸の際の信用力が上がり、選択肢が広がります。特に都市部では「個人への貸出不可」「旅館業用途NG」など制限のある物件も多く、個人事業主だと交渉が難航しがちです。しかし、法人名義であれば旅館業運営の実績や収益計画をもとに交渉しやすくなり、店舗付き住宅やテナント物件なども視野に入ってきます。例えば、個人時代に断られた駅近の築浅物件が、法人契約なら許可され、インバウンド向け高単価民泊として運用できたという事例もあります。法人化によって不動産オーナーや管理会社からの信頼を得やすくなり、物件の拡大戦略が立てやすくなるのが大きなメリットです。
複数物件の管理・運営の効率が上がる
法人化によって、複数物件を効率的に管理・運営できるようになります。例えば、清掃スタッフや鍵管理、チェックイン対応などを法人で一括契約・管理できるため、外部委託やアルバイトスタッフの雇用・教育もスムーズです。また、法人名義の会計処理に統一することで、物件ごとの収益管理や経費の把握も明確になります。例えば、都内に2物件・地方に1物件を持つケースでは、法人で一括して業務委託契約を結び、運営を本社管理に一本化することで、人的コスト・時間・トラブル対応の効率あがります。個人事業では煩雑になりがちな複数物件の運営も、法人化によりスケールメリットを生かした安定経営が可能です。
民泊事業に対する対外的信用が高まる
法人格を持つことで、取引先や行政、金融機関からの信用度向上が期待できます。例えば、法人名義で運営すると、民泊予約サイトとの法人契約が可能になって、より有利な条件を得られる可能性もあるでしょう。また、オーナーが複数の物件を管理している場合、法人として運営しているとゲストからも本格的な運営体制と見なされ、安心感を与える効果も期待できます。
民泊を法人化するデメリット
民泊の法人化には多くのメリットがある一方で、法人化によって新たに発生する負担やリスクも存在します。個人事業と比べて手続きや管理が複雑になる点は、見逃せないデメリットです。ここでは、民泊ならではの視点で、法人化に伴う代表的な注意点を具体的に解説します。
物件を購入時には消費税を返還するケースがある
民泊を法人化した場合、物件購入時に消費税を還付できるケースがある一方で、将来的に「課税売上割合」が50%を下回ると、還付分を返還しなければならないリスクがあります。例えば、法人で空き家を購入し民泊運用を始めたが、予約の多くが30日以上の長期滞在になった場合、それらは非課税売上に該当します。結果、全体の課税売上割合が50%を切ると、過去に還付を受けた消費税を返還しなければならなくなります。短期宿泊中心のつもりが、実態として賃貸に近い運営になっていたりすると、節税目的での法人化がかえって負担増になる場合もあるので注意が必要です。
閑散期に利益がなくても税金(均等割)が発生する
法人は利益が出ていない場合でも、最低7万円前後の法人住民税均等割が毎年課されます。閑散期が長い地域や、コロナ禍のような急激な需要低下の影響を受けやすい民泊業では、赤字でも税金が発生するのは大きな負担です。個人事業なら所得がなければ税負担は発生しませんが、法人では収益に関係なく支払い義務が生じます。
宿泊実績や収支報告を含む複雑な事務作業が増える
法人化後は、複式簿記による帳簿管理や年1回の決算報告、税務申告が必要になります。例えば、清掃委託費や予約仲介サイト(Airbnbなど)への手数料など、細かい支出の記録も正確に帳簿に反映させる必要があります。これまでExcelで簡単に収支管理していた事業者にとっては、事務作業の負担が格段に増えるでしょう。
従業員向け健康保険・厚生年金への加入が義務になり負担が増す
法人になると、たとえ従業員が自分1人でも健康保険・厚生年金への加入が義務になります。個人事業で国民健康保険・国民年金に加入していた時よりも保険料の負担が重くなるケースもあります。特に、民泊経営が副業である場合や、収入が安定しない時期には、こうした固定費の増加が大きなリスクになりかねません。
民泊を法人化するための具体的ステップ
民泊事業を法人化するには、個人事業とは異なる正式な手続きを段階的に進める必要があります。手続きには法的な書類の作成や官公署への届出が含まれ、適切に行わないと許認可に影響する場合もあります。本章では、民泊運営に必要なポイントを踏まえながら、法人化の流れをわかりやすく説明します。
株式会社または合同会社の選択
法人化にあたっては、まず「株式会社」か「合同会社(LLC)」のどちらで設立するかを決めます。例えば、将来的に民泊物件のオーナーや投資家から出資を受けたい場合は、株式発行が可能な株式会社の方が柔軟です。一方、家族経営の少人数体制で運営する場合は、設立費用や維持コストが安い合同会社が適しています。
定款の作成および公証役場での認証
株式会社を設立する場合、会社の基本方針を記した「定款」を作成し、公証役場で認証を受ける必要があります。民泊に特化する場合は、事業目的に「簡易宿所の運営」や「住宅宿泊事業法に基づく民泊事業」などを明記しましょう。これを記載しないと、銀行口座開設や融資審査に支障が出る場合もあります。
法人口座の準備と開設
法人名義の銀行口座が必要になります。例えば、予約サイト(Airbnb、Booking.comなど)からの入金や、清掃業者・鍵管理会社への支払いなど、日々の資金管理は法人口座を通じて行うことが求められます。定款や登記簿謄本などを提出し、審査を通過することで初めて口座開設が可能になります。
法人としての登記手続きの完了
会社の所在地や資本金、役員構成などを定め、法務局で法人登記を行います。例えば、複数の民泊物件を運営している場合でも、登記上の本店住所は一か所で構いませんが、民泊事業であることを税務署や自治体に明確に伝える必要があります。登記完了後には法人番号が付与され、正式な法人として活動が可能になります。
個人事業としての廃業申請の実施
法人設立後は、以前の個人事業を終了させる手続きも忘れずに行う必要があります。税務署へ「個人事業の廃業届出書」を提出し、必要に応じて所得税の申告も行います。民泊として旅館業許可を得ていた場合、その許認可を法人名義に変更する手続きも別途必要になりますので、管轄の保健所へ事前に確認しておきましょう。
まとめ
民泊を個人事業として始めても、売上向上や事業拡大のため、法人化のタイミングを検討する場合があるでしょう。
法人化には、多くのメリットがある一方で、デメリットもあるため、慎重な判断が必要です。
法人化を検討する際は、本記事の内容をふまえ、節税や資産承継、事業拡大などの目的に応じ、自身の事業に最適な形を見極めてみてください。
ただ、法人化のタイミングや手続きについては、専門的な判断を必要とする場合があり、判断にまようかもしれません。
そこではぎぐち公認会計士・税理士事務所では、民泊の法人化に関するご相談も承っております。
どうぞ、お気軽にお問い合わせください。