会社設立の費用を抑え効率的に手続きするため、オンライン申請を検討されている方もいらっしゃるでしょう。しかし実際には、オンライン申請は簡単なように思えて、電子定款の認証方法や添付書類の準備、登記申請の期日管理など、初めての人がつまずきやすいポイントが数多く存在します。
そこで本記事では、会社設立をオンラインで申請する流れや必要な準備、よくある失敗とその回避方法、さらに自分で申請する場合と専門家に依頼する場合の比較も解説します。本記事で情報を得て、オンライン申請に必要な知識を整理し、安心して設立準備を進めましょう。
会社設立をオンライン申請する前の準備
会社設立をオンラインで申請するには、事前の準備が重要です。
まずは、法務省が提供する「登記・供託オンライン申請システム(登記ねっと/供託ねっと)」のサイトにアクセスし、申請者情報登録を行いましょう。この登録をしないとオンライン申請は利用できません。
トップページの「申請者情報登録」から規約に同意し、氏名・住所・メールアドレスなどを入力して仮登録をします。登録後、認証メールが送られてくるため、記載されている認証コードを入力して本登録を完了させてください。最終的に申請者IDとパスワードを取得できます。なお、このID/パスワードは後日、申請用ソフトへログインする際に必要になるため、必ず控えておきましょう。
申請者情報登録が終わったら、オンライン申請に使うためのソフトや端末環境を整備しておきましょう。
| 準備すること | 備考 | |
| 1 | 申請用総合ソフトのダウンロード | 法務省 登記・供託オンライン申請システム(登記ねっと/供託ねっと) |
| 2 | 対応OS・ブラウザなどの確認 | Windows10/11が推奨されることが多い |
| 3 | 電子証明書・ICカードリーダーの取得・準備 | ・電子署名を付与するための電子証明書(マイナンバーカードなど)と、それを読み取るICカードリーダーが必要・ICカードリーダーがない場合は、電子証明書などを読み取れるスマートフォンが必要 |
また、PDF電子署名を添付する際に利用する、プラグインやソフトが必要な場合があります。必ずソフトの説明書を確認しましょう。
加えて、オンライン申請の受付時間にも制限があるため注意が必要です。例えば、法務局では申請の受付時間は平日の8時30分~17時15分と定められており、オンラインシステムへの送信が遅れた場合は翌営業日扱いとなる場合があります。
会社設立をオンライン申請する際の流れ
会社設立をオンライン申請する際の流れを6つのステップに分けて解説します。
ステップ1:申請書情報の作成
オンライン申請では、専用のソフトを使って申請書情報を作成します。ソフトの画面には「商業登記申請書」や「不動産登記申請書」など複数の様式が表示されるので、会社設立であれば「商業登記申請書」を選びましょう。商号や所在地、事業目的など必須項目が明示されているので、その指示に沿って入力を進めます。
入力後は「自動チェック」機能で誤字や記号の誤使用、入力漏れがないかを確認できます。エラーが残っていると次のステップに進めないため、修正を繰り返し、最終的にエラーが消えた状態で申請書を完成させましょう。
参考:法務省 登記・供託オンライン申請システム
ステップ2:添付書面情報の作成と添付
次に、登記申請に必要な書類を電子データとして準備し、添付していきます。添付する書類は定款、役員の就任承諾書、印鑑証明書などで、ソフト上の「ファイル添付」機能を使えば、どの書類が必須かが一目で分かります。添付する前には、必ず電子署名を付与する必要があります。
すべての必要書類を電子化して送信すれば、原則として法務局に書面を提出する必要はなく、完全オンラインで手続きを完了できます。ただし、電子データ化が難しい書類は「書面提出」にチェックを入れ、後日郵送または持参する流れになります。事前に電子化可能な書類を確認しておくと、手続きを効率的に進められます。
ステップ3:登記のオンライン申請(登記ねっと等)
申請書情報と添付書類の準備が整ったら、最後に申請書自体へ電子署名を行い、登記のオンライン申請を送信します。操作はシンプルで、対象の申請書を選び「送信」ボタンをクリックするだけです。送信が終わると申請一覧画面のステータスが「送信完了」に変わるため、必ずチェックしておきましょう。
ステップ4:到達・受付のお知らせ確認
送信が完了すると、システム上の「処理状況表示」から進捗を確認できます。ここでは「到達」「受付確認」「補正」「お知らせ」「納付」といったボタンが表示され、申請の状況が一目で分かる仕組みです。例えば、送信から数分で「到達」ボタンが表示され、申請番号や到達日時を確認できます。
その後、登記所で受付が始まると「受付確認」ボタンが表示され、受付番号や受付日が確認できます。不備が見つかれば「補正」ボタンが現れ、修正が求められます。これらを確認せず放置すると、補正期限を過ぎて申請が却下される可能性もあるため、こまめにチェックしましょう。
特に、受付時間の制限には注意が必要です。平日の17時15分以降に申請書を送信した場合は「到達」には反映されても、登記所での正式な受付は翌営業日になります。送信後は処理状況を逐一確認し、エラーや差し戻しが発生していないかを把握しましょう。
ステップ5:登録免許税・登記手数料の納付
法人を設立する際には、登録免許税の納付が必須です。オンライン申請の場合は、「電子納付」と「領収書や収入印紙での納付」の2種類から選べます。
電子納付を選択すると、処理状況表示画面の「納付」ボタンからe-Gov電子納付サイトに移動し、そのまま手続きが可能です。すべての手続きをオンラインで完結させたい場合は、この方法がおすすめです。
紙での納付を選ぶ場合は、納付用紙を印刷し、住所や氏名を記入して収入印紙を貼り付け、法務局に持参または郵送します。完全オンラインを希望するなら電子納付、窓口対応に慣れている場合は印紙納付、と自分の状況に合わせて選ぶと良いでしょう。
参考:e-Gov電子納付
ステップ6:必要に応じて補正や取り下げ対応
申請後に登記所から不備を指摘された場合は、必ず補正手続きを行いましょう。補正には申請情報の再提出や追加資料の添付などがあり、いずれもオンラインシステム上で対応できます。期限内に補正を行えば申請は有効に進みますが、対応が遅れれば申請そのものが却下されるため注意が必要です。
万が一、登記の内容に誤りが見つかり、申請自体を取りやめたい場合は、オンラインまたは書面で申請の取り下げも可能です。いずれにしても、処理状況画面を定期的に確認し、補正やお知らせの通知を見逃さないようにすることが大切です。オンライン申請は便利な反面、自己管理が求められる点をよく理解しておきましょう。
オンラインでの会社設立で失敗しないためのポイント
会社設立をオンラインで行うと、手数料や印紙代の節約、移動時間の削減など多くのメリットがあります。しかし、その反面失敗談も少なくありません。そこで本章では、オンライン申請でありがちなつまずきポイントを整理し、失敗を防ぐための注意点を解説します。
①電子定款の正しい認証方法をおさえる
オンラインで会社設立を行う大きなメリットは、電子定款を利用して印紙代4万円を節約できる点です。ただし、電子定款の認証には「電子署名」やPDF変換が必要で、マイナンバーカードやICカードリーダー、専用ソフトの準備が欠かせません。また、作成した定款を公証役場にオンライン送信する流れも理解しておかなければなりません。
初心者は設定や操作でつまずきやすく、手続きが滞ることもあります。失敗を防ぐには、公証役場に依頼する前に必要機器やソフトの動作確認を行い、電子署名のテストを済ませておくことです。事前準備を徹底すれば、電子定款は難しくなく、費用削減効果を確実に得られます。
②登記申請の受付時間と期日
会社設立登記は、法務局のオンライン申請システムで行えますが、受付時間や登記期日の制限に注意しましょう。システムの受付は原則24時間可能ですが、実際の処理は平日の業務時間内に限られます。そのため、夜間や休日に申請をしても「翌営業日受付」となるため、設立日を指定したい場合にはスケジュール管理が欠かせません。
また、申請日が登記簿に記載されるため、資本金の払い込みや定款認証などの準備が整っていないと希望日に間に合わないこともあります。特に月末や期末に集中する時期は処理が遅れるケースもあるため、余裕を持ったスケジュールを立てることが失敗を防ぐポイントです。
③添付書類の不備リスク
オンライン申請では、登記申請書以外に複数の添付書類をPDF化して提出します。ここで不備があると、法務局から補正を求められ、手続きが遅れる原因になります。例えば、発起人の印鑑証明書の期限切れや、定款に押印が不足しているケース、資本金の払い込みを証明する通帳コピーの不鮮明さなどが典型的なトラブルです。また、オンライン提出のため紙書類の原本確認が難しく、細かい不備が見落とされやすい点にも注意が必要です。
事前に必要書類をリストアップし、チェックリストを用意して一つずつ確認することでリスクを最小限に抑えられます。小さな不備でも申請は差し戻されるため、慎重な準備が欠かせません。
④資本金の振込タイミング
資本金の払い込みタイミングにも注意が必要です。原則として資本金は、発起人の個人口座に振り込み、その通帳のコピーを添付書類として提出しますが、この作業は定款認証後かつ登記申請前に行うようにしましょう。
先に振り込んでしまうと、手続き上の証拠として認められない場合があるため要注意です。また、複数の発起人がいる場合は、振込人と金額が明確に分かる形で記録されていることが重要です。オンライン申請では特に書類のやり直しが手間になるため、振込の順序と証憑の取り方を正しく理解して進める必要があります。適切なタイミングで資本金を振り込むことが、スムーズな会社設立のポイントです。
自分で申請する場合と申請を代行した場合の比較
基本的に、会社設立の際に必要となる定款認証や登記申請は、法務局やオンラインシステムを通じて自分で手続きを行えます。一方で、司法書士や行政書士などの専門家に依頼して代行してもらう方法もあり、それぞれにメリットとデメリット、そしてかかる費用が異なります。では、どのように異なるのか、「自分で申請する場合」と「専門家に依頼する場合」を比較してみましょう。
| メリット | デメリット | |
| 自分で申請する場合 | ・専門家報酬が不要なため、費用を抑えられる ・申請の流れを学べるので、知識が身につく ・電子定款を利用すれば紙の印紙代4万円を節約可能 | ・書類作成に手間がかかり、慣れていないと時間がかかる ・書類不備による補正や再提出のリスクがある ・平日の日中に手続きが必要な場合が多い |
| 申請を代行する場合 | ・書類作成や申請を丸ごと任せられるため、確実性が高い ・法改正や最新ルールに沿った正確な手続きをしてもらえる ・自分は事業計画や資金準備に集中できる | ・報酬が追加で必要になるためコストが上がる ・手続きを完全に任せるため、学習の機会は少ない |
会社設立のオンライン申請は、自分で行うか専門家に依頼するかで大きく特徴が分かれます。特に電子定款を利用すれば印紙代4万円が節約でき、コストを重視する人には適しています。ただし、申請書類の作成やオンラインシステムの操作に慣れていないと手間や時間がかかり、記載不備による修正のリスクも高まります。
| 項目 | 自分で申請する場合 | 申請を代行する場合(司法書士・行政書士) |
| 定款認証手数料 | 約5万円 | |
| 登録免許税 | 15万円(株式会社の場合) | |
| その他実費 | 数千円程度 | 5万〜10万円程度(専門家報酬) |
| 合計 | 約20万〜21万円程度 | 約25万〜30万円程度 |
自分で申請する場合は、報酬が不要な分、かかる費用が約20万~21万円程度に抑えられる点が魅力です。一方で、司法書士や行政書士に依頼すれば、報酬が必要になるため25万~30万円程度と割高になりますが、最新の法令に則った確実な申請ができ、事業準備に専念できる安心感があります。つまり、コスト削減を優先するなら自分で、効率性や正確性を求めるなら専門家への依頼が最適でしょう。
オンラインで会社設立する時のよくある質問
会社設立をオンラインで進める方法は、費用の節約やスピード感を求める起業家に便利です。しかし、実際に取り組む前には多くの疑問が出てきます。本章では、よく寄せられる質問を整理し、ポイントを分かりやすく解説します。
- ①合同会社でもオンライン申請できますか?
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株式会社だけでなく合同会社でもオンラインで設立申請が可能です。
株式会社の設立には定款の認証が必要ですが、合同会社は公証役場での定款認証が不要なため、その分手続きがシンプルになります。オンライン申請を利用すると、印紙代(4万円)の節約は株式会社同様に適用され、書類の提出もデータで完結できるため、コストと手間を抑えながら設立が進められます。
ただし、登記申請に必要な書類(会社の基本事項を記載した申請書、定款、資本金の払い込みを証明する資料など)をそろえる必要があり、不備があると補正が求められます。特に初めての方は、専門的な内容も多く準備で不安を感じやすいため、ひな形の活用や専門家のチェックを受けることをおすすめします。
- ②電子定款は紙の定款と何が違いますか?
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大きな違いは、印紙税が課されないため、紙の定款では必要な4万円が不要になる点です。
電子定款は、紙の定款をPDF化し、発起人の電子署名を付与して作成されるデジタル版の定款です。印紙代が不要になるため、株式会社設立のコスト削減につながります。
一方で、電子定款を利用するにはマイナンバーカードやICカードリーダー、専用ソフトの準備が必要です。また、オンラインで作成した定款は公証役場にデータで送信し、認証を受けます。紙の定款と内容の違いはなく、法的効力も同じですが、電子定款は不慣れな方にとっては事前準備のハードルが少し高くなっています。
- ③会社設立までにどのくらいかかりますか?
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オンラインで会社設立を行う場合、準備が整っていれば最短で1〜2週間程度で設立が可能です。
まず定款を作成・認証し、資本金の払い込みを行った後に登記申請をします。法務局への登記申請が受理されると、審査を経て登記簿謄本が交付されるまで通常は5営業日前後かかります。紙の申請と比べるとオンラインは処理がスピーディーですが、申請書類の不備や添付資料の不足があると補正が必要となり、その分日数が延びる可能性があります。また、繁忙期(3月・9月など)には審査に時間がかかるケースもあるため、余裕を持ったスケジュールを立てることが大切です。
- ④会社設立を無料でできる方法はありますか?
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会社設立を完全に無料で行う方法はありません。
登録免許税(株式会社は最低15万円、合同会社は6万円)は必ず必要で、国に納める法定費用であるため免除はできません。ただし、電子定款を利用すれば印紙代4万円を節約できるため、紙の定款に比べてコストを抑えることが可能です。
また、司法書士や行政書士に依頼すると報酬がかかりますが、自分でオンライン申請を行えばその分を節約できます。さらに、法務局や経済産業省のサイトには定款や申請書の雛形が公開されているため、活用すれば専門家に依頼せずとも手続きを進められます。つまり「完全無料」は不可能ですが、工夫次第で最低限の法定費用に抑えて設立することは可能です。
まとめ
本記事では、申請の流れや必要な事前準備、失敗を防ぐポイント、代行依頼との比較、よくある質問への回答まで幅広く解説しました。
これらを理解して進めれば、トラブルを避けながら効率的に会社を設立できますが、電子定款の準備や添付書類の不備、申請期日の管理など注意点も少なくありません。
そこではぎぐち公認会計士・税理士事務所では、会社設立に関するご相談も承っております。
手続きを不安に思ったり、アドバイスが欲しいと思われる方は、お気軽にお問い合わせください。



