節税対策には会社設立が有効?法人化するメリットとデメリットを徹底解説

目次

会社設立で節税できるケースとは

個人事業主から法人化する場合、会社設立が節税になるにはいくつかの条件があります。そのうち分かりやすい一つの基準は、所得の金額です。

所得が900万円を超えるかがひとつの目安

所得が900万円を超える時は、会社設立で節税できるひとつの目安になります。なぜなら年収(事業所得)が900万円超になると、税金が低くなる可能性が高いためです。

個人事業主の場合、年収は総収入から経費や所得控除を引いた後の金額が、事業所得として計算されます。個人事業主が支払う主な税金は所得税ですが、この利率は会社員と同じように累進課税方式が適用されます。累進課税制度下では、所得に応じて税率も高くなっていきます。例えば、695万円超~900万円以下の所得に対しては23%の税率が適用され、900万円超~1,800万円以下の税率は33%になります。なお、所得4,000万円超になると税率は一律になり、最高税率の45%が課せられます。(参考:国税庁 No.2260 所得税の税率

一方で、会社を設立すると、事業の収入には法人税率が適用されます。法人税は、個人に課される累進課税とは異なり、税率は一定です。資本金1億円以下の普通法人は年間の収入が800万円以下の場合の税率は15~19%ですが、800万円を超えると税率は23.2%の税率になります。(参考:国税庁 No.5759 法人税の税率)その後は収入が増えても税率は変わらず、900万円以上になると法人の方が税率が低くなります。これが、所得が900万円を超えるラインが会社設立の目安になる理由です。

ではここで、900万円の所得がある時、個人事業主と法人ではどのように税金の金額がことなるかシミュレーションしたいと思います。

【個人事業主の所得が900万円の場合の所得税】

900万円-153万6,000円×33%=246万3,120円

【会社設立後の事業所得が900万円の場合の法人税】

900万円×23.2%=208万8,000円

比較するとその差は、246万3,120円-208万8,000円=37万5,120円です。900万円の所得があると、法人化をした方が、37万5,120円の節税になるとわかります。

会社設立で得られる主な節税メリットは?

会社設立を検討するには、個人事業主との違いの理解が欠かせません。なかでも、大きな違いがある点は節税メリットです。では、どのような節税メリットがあるか解説していきます。

役員報酬を活用できる

会社設立で得られる節税メリットの一つに「役員報酬の活用」があります。役員報酬とは、会社設立後、代表者が会社から受け取る給与のことです。個人事業主の場合、事業の売上がそのまま収入となり、全額を確定申告して所得税を支払います。その場合の青色申告特別控除は65万円までですが、役員報酬は給与のため「給与所得控除」が適用されます。すると、控除額は55万円から最大195万円にもなります。この控除が大きいため、役員報酬を活用する方が、個人事業主の時よりも節税効果を高めることができるのです。

家族と所得を分けられる

家族と所得を分けられる点も会社設立で得られる節税メリットの一つです。家族を従業員として雇いそれぞれに報酬を支払う方法をとると、個人ごとの所得が減り所得税の負担を軽減できます。さらに、家族一人一人の給与に対しても「給与所得控除」が適用されるため、全体の控除額が増加し節税効果が高まります。このように、所得を分散すると、累進課税制度のもとでは税率が下がり、結果的に支払う税金を減らす効果があるのです。

退職金を活用できる

退職金の支払いで節税できる点もメリットです。法人化すると、勤続5年以上の役員や従業員に対して退職金を支払うことができ、退職金を支払うことで会社の所得が減少し、節税効果が得られます。さらに、退職所得には控除が適用されるため、給与として支払うよりも大幅に節税が可能です。ただし、退職金に関しては、個人事業主でも小規模企業共済制度やiDeCoを利用することで税制優遇を受けられるため、必ずしも法人化が有利とは限らない点に注意しましょう。

欠損金の繰り越しができる

欠損金の繰り越しができる点も会社設立のメリットです。法人の場合、発生した欠損金は最大10年間繰り越せます。創業当初は、事業が軌道にのるまでは経営が苦しく、赤字になる場合もあるでしょう。一見順調そうに見えても、将来いつ赤字になるかはわかりません。事業が赤字でも、必要な税金の支払いからは逃れられませんが、欠損金を繰り越せると、将来の黒字に対してその赤字を差し引くことができるようになり、法人税を減らすことができます。欠損金の繰り越しは、特に創業期の節税対策として有効です。

設立2年は消費税の納税義務が免除される

会社設立後、2年間は消費税が免除される点もメリットです。通常、売上が基準期間で1,000万円を超えると消費税の納税義務が発生しますが、法人の場合、設立時点では課税対象となる売上がないため、原則として最初の2年間は消費税の納税義務が免除されます。さらに、3年目に入った時も、1・2年目の売上が1,000万円未満であれば、3年目も免税事業者のままです。ただし、出資金の額が1,000万円以上や特定新規法人等、特定期間での売上が一定額を超える場合は、設立初年度から課税事業者となるため、注意が必要です。詳しくはこちらをご確認ください(国税庁HP No.6501 納税義務の免除

保険を活用できる

法人保険を活用できる点もメリットです。個人事業主の場合、保険料は経費として認められませんが、法人であれば保険料の全額または半分を経費に計上できます。そのため、利益を抑えて税負担を軽減できる可能性があります。ただし、以前は大きな節税効果が見込めましたが、近年は規制が厳しくなってきているのが現状です。また、解約返戻金がある保険では、解約や満期時に課税されるため、その時期に経営者の退職金や設備投資に充てるなど、計画的に活用することが大切です。

節税目的で会社設立するデメリットは?

法人になると、経費にできる項目が個人事業主の場合よりも増えるため、節税効果が増す点は、よくお分かりいただけたでしょう。しかし、法人化する方が節税に対してデメリットになる点もあります。

設立や維持にはコストがかかる

会社設立や維持には手間・時間・費用の面でコストがかかります。会社設立時には、定款作成や登記などの手続きが必要ですが、手続きの完了には数週間かかることがあります。また、登録免許税や司法書士への依頼料など、少なくとも約20万円の初期費用が発生します。さらに、維持するためには毎年決算報告や法人税申告が必要で、税理士への依頼料などで年間10万円以上かかることもあります。これらの手間とコストを考慮すると、節税目的だけで会社設立をするにはデメリットがあると言えます。

節税効果が薄い場合がある

節税目的で会社設立する際のデメリットの一つは、期待した節税効果が薄い場合があることです。例えば、法人税率が個人の所得税率よりも低い場合、所得が少ない個人事業主が法人化しても、逆に税負担が増えることがあります。また、法人化には設立や維持にかかるコスト(法人税、事務手数料、社会保険料など)が発生し、これが節税効果を相殺する場合もあります。さらに、法人化したことで得られる特典(退職金制度や保険の経費化など)も、業種や規模によっては十分に活用できないケースが多く、結果的に期待した税制優遇が得られないリスクがあります。

節税制度を活用した方がよい場合がある

節税目的で会社設立するデメリットの一つに、「個人事業主の節税制度を活用した方が良い場合がある」点があります。個人事業主には、青色申告特別控除(最大65万円)や、iDeCo、小規模企業共済といった節税制度があります。これらの制度を利用することで、所得控除を受けたり、将来の退職金を準備することができ、手軽に節税が可能です。しかし、法人化した場合にはこれらの制度を使えなくなり、法人特有のコストや手続きの煩雑さが増えるデメリットがあります。売上や所得が少ない個人事業主にとって、これらの制度をうまく活用する方が、手間とコストの面で有利なことが多いのです。

まとめ

今回は、節税効果を利用して会社設立を考えている人に向けて、会社設立で節税になる目安と、主な節税メリットやデメリットを解説しました。

この記事が、会社設立を検討している方の参考になれば幸いです。

ただ、会社設立にあたっては、単純にメリットやデメリットを考慮しただけでは判断しきれないこともあると思います。

実際の所得を元に計算をしてみたり、数年の見通しを持って会社設立を検討する必要もあるかも知れません。

自分だけでは判断しかねる方や、専門家の話を聞きたいという方もいらっしゃるでしょう。

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