■テーマ 出資をするとき、してもらうときの留意点
さて前回は「創業事業者の強い味方、創業融資制度」というテーマで、
創業時の融資は、「金利」だけでなく「融資がおりるまでのスピード」まで考慮しながら、借入先を選択しましょうというお話をいたしました。
今回は、エンジェルや知り合いからの出資を得る場合、また共同経営をする場合を想定しております。
「ベンチャーキャピタルからの出資と資本政策」については、次回、取り上げます。
■融資と比較した出資のメリット・デメリット
創業者からみると出資は、融資と違って「返済不要」の資金調達です。
「利子」を支払う必要もありませんので、事業の不確実性が高い段階では非常に嬉しい条件です。
一方で、出資は、株式会社の所有権を所有されることになる点がデメリットです。
何も考えずに他人からたくさんの出資を受けてしまうと、
会社の経営に大きな影響を与えられる権限を与えてしまったり、最終的には乗っ取られるということにもなり兼ねません。
この内容は、以前にも以下にてお伝えしました。
→vol.4『融資か出資か。それぞれのメリット・デメリット』
今回お伝えしたいのは、「出資によって経営に影響が出る可能性がある」という点です。
■株主に与えられる2つの権利
出資する株主に与えられる権利は、大きく分けて2つです。
1つは共益権、もう1つは自益権です。
共益権というのは株式会社の経営に参加する権利をいい、
議決権などが主な権利です。
また自益権というのは、株主として利益の分配を受ける権利をいい、
利益配当請求権などのことをいいます。
出資するにしても出資してもらうにしても、これらの権利が発生することを覚えておかなければなりません。
■留意点1:創業者よりも多くの金額を出してもらうことは可能なのか
株式会社を経営するにあたり、創業者はなんとしても過半数の株式を保有したいところですが、
たとえば自己資金が300万円しかなければ、(一株あたりの出資価額が同じ前提で)他人からは300万円未満しか調達できないのでしょうか。
一方で、エンジェルのような投資家は、自らが気に入った創業経営者にお金は出したいが自らがその会社の経営権を持って何かをしたいという
経営の意思を持っていない場合もあります。
■経営権を守るための無議決権株式
このように、創業者よりも多くの資金を他人が出す場合に有効な手段として、
「無議決権株式」の発行があります。
すなわち、株主としての利益を享受する自益権はあるが、
経営に参画するための議決権が放棄された株式のことです。
例えば、会社設立時に、創業経営者が300万円、エンジェルが500万円を出資(一株単価は同じ前提)したとすると、創業者:エンジェルで300:500と過半数の株式を持ってしまうことになります。
しかし、エンジェルの株式を無議決権株式とすることで、
創業者は300:0すなわち100%の議決権比率を維持できるのです。
自益権割合は、300:500とエンジェルが過半数となりますが、
共益権(議決権)割合は、300:0となり、
創業経営者は経営権を守ることができるのです。
ただし、無議決権株式を発行する場合は、経営権を放棄してもらう見返りとして、
優先配当権などなんらかのプレミアムをつけることもあります
(プレミアムをつけることで、経営権を放棄してもらうという交渉上の条件です)。
そのほか、一部を融資にし、出資の額を抑えるということも考えられると思います。
■留意点2:共同経営の場合の出資比率
私のお客様でも、よくあるのが2人での共同経営で、50%ずつ出資したいというようなケースです。
しかし、私は極力この50%ずつの持ち合いは勧めておりません。
株式会社の意思決定においては、議決権の「過半数」が必要です。「半数」では何も決定することができません。
当初、2人が仲良く一つの目標に向かっている時は問題ないのですが、
意外と共同経営というのはうまくいかないことが多いです。
なぜなら、2人の事業に対するコミットの度合いや、
その事業以外にどれだけ収入があるのか、
報酬ゼロでどのくらい生活上持ちこたえられるのかということも違うからです。
事業がなかなかうまくいかなかったとき追加の資金をどっちが出すのか、
逆にうまくいったときお互いの報酬をどれだけ取るのかということでもモメるケースが非常に多いです。
「モメた」とき、最終的には法的にどちらかが「過半数」を持っていることで、会社は前に進むことができます。
ですから、私は共同経営の会社設立に携わる場合は、必ず
「出資比率を決めるときに、最終的にはどちらの会社で、どちらのビジネスなのか
明確にしておいてください。」
と言います。
すなわち、51%:49%の状況を作っておくということです。
先日は、5人の共同経営で20%ずつという会社もありましたが、
その会社も設立後3か月後には、3人が離脱していました。
その3名はおいしい話に乗ってきただけで、自ら事業に対して貢献することはありませんでした。
それでも、この3人が結託して60%の議決権を行使すれば、
代表を追放することもできたわけですから、ガバナンス上は非常に不安定な状況であったと言わざるを得ません